医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-76:肝細胞癌標的治療薬としてのDPP-4阻害剤の分子生物学的解析研究代表者:仁科 惣治(肝胆膵内科学)【目的】肝細胞癌(HCC)に対するDPP4阻害剤(anagliptin)の抗腫瘍効果について検討した。【方法】検討1:根治的肝切除術を受けたHCC患者41例を対象に、切除肝癌組織標本におけるCD26染色強度とHCC進展および腫瘍組織内の免疫細胞(T細胞およびNK細胞)浸潤との関連性を検討した。検討2:リアルタイム細胞動態解析装置(EZ-TAXIScan)を用いて、肝癌細胞へのT細胞およびNK細胞の走化性に対するDPP4阻害剤の効果を検討した。【結果】検討1:ヒトHCC組織においてCD26高発現群は低発現群と比べ、中低分化度・stage進行症例が有意に多く、T細胞およびNK細胞の腫瘍組織への浸潤が有意に少なかった。検討2:DPP4阻害剤はCXCL10によるT細胞およびNK細胞の腫瘍細胞への走化性を亢進させたが、この効果はCXCL10中和抗体によりキャンセルされた。したがって、DPP4阻害剤はCXCL10の不活化を抑制することでT細胞およびNK細胞走化性を亢進させると考えられた。【結語】DPP4阻害剤はin vivo において肝腫瘍増大抑制効果を認めた。この作用機序として、DPP4活性はCXCL10を介したT細胞およびNK細胞の走化性を阻害するが、DPP4阻害剤はこれを抑制することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられた。29基-50:癌転移抑制化合物を医薬品として開発するための基礎的検討 研究代表者:山内 明(生化学) 癌は増殖する形質と転移・浸潤する形質を併せ持つ。現在、癌治療薬は腫瘍の増殖・増大を抑える薬剤が主流であり、癌転移をターゲットとした薬剤は上市されていない。本研究の目的は癌転移を抑制する低分子化合物を見出し非臨床・臨床試験へ繋げることである。 本研究は、平成26年度に本学が採用された広域大学知的財産アドバイザー派遣事業「西日本医系大学知的財産管理ネットワーク」のメンバーとして川崎医科大学学術集会に参加した福山大学薬学部町支臣成教授の発表に端を発し、以後、共同研究として進めたものである。町支研究室にて合成された低分子化合物および市販の化合物ライブラリー(計数百種)の中から、当研究室で確立した膵癌細胞株走化性評価系(TAXIScan法)を用いて、ヒト膵癌細胞株BxPC-3の走化性抑制を評価した。評価パラメーターは速さと方向性を用いた。その結果、少なくとも4種の化合物について、速さ・方向性をともに抑制する化合物が見いだされた。使用した濃度では、WST-1アッセイによる細胞毒性は観られなかった。この4種のうち、1種について同じ膵癌細胞株を皮下移植したヌードマウスを用いた腫瘍増大抑制試験を行ったところ、膵癌治療の既存薬Gemcitabineに比べて(どちらも1mg/匹投与)、この化合物は明らかに腫瘍体積の増加を抑えていた。現在、転移抑制についてもマウスモデルにて評価を進めているところである。S73

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