医学会誌44-補遺号[S30]
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28基-95:虚血性心疾患患者におけるn-3系多価不飽和脂肪酸の血管内皮機能障害への影響研究代表者:古山 輝將(循環器内科学) n-3系多価不飽和脂肪酸を多く摂取すると心血管疾患発症が少ないとJERIS研究で証明された。血管内皮から産生される一酸化窒素(NO)は動脈硬化の発症と進展を抑制するため血管内皮機能障害は動脈硬化の進展に関与する。動脈硬化検査法として血流依存性血管拡張反応(FMD血流依存性血管拡張反応)があり、駆血開放後に血管内の血流増加により強力なshear stressが生じ、その後、一過性に血管が拡張する現象を観察する。すなわちFMDにより血管内皮細胞から産生されるNO等の血管拡張物質に反応する血管拡張性が診断できる。FMDを利用した検査方法としては上腕動脈の血管超音波検査で血管径変化を直接計測する方法を用いる。しかし、FMDの上腕動脈拡張率を超音波で測定する機器は、超音波による血管内径側定を原理とするため、内径描出が一定とならず、個人差が大きく再現性も乏しい。また、超音波エコー検査者の技量に依存するところが大きく超音波検査機器が高額である問題があった。最近上腕駆血解放後の血管拡張反応を指尖の毛細血管の圧変化でとらえるPAT(末梢動脈圧計側器)技術による新しいFMD測定法としてEndo-Pat 2000が開発された。本研究では虚血性心疾患を有する患者の血管内皮機能がn-3系多価不飽和脂肪酸により改善しうるかをEndo-Pat 2000を用いて明らかにすることを目的とし途中経過について報告する。29基-75: 心筋再生に必須の新規遺伝子Fam64aの酵素センシング機構及び細胞周期促進機構の解析研究代表者:橋本 謙(生理学1) 哺乳類の心筋細胞は胎児期には活発に分裂するが、出生後は分裂を停止する。従って、成体では虚血性心疾患等で失われた心筋細胞を再生することは出来ず、致死的となる。我々は最近、心筋分裂には低酸素環境が必須であり、子宮内低酸素環境から、出生後の肺呼吸開始による酸素濃度の増加が心筋分裂を停めることを突き止め、この過程に関与する最重要遺伝子としてFam64aを同定した。Fam64aは胎児期心筋の核に強く発現して細胞周期を促進するが、出生後は発現が激減する。本年度は、出生後に心筋特異的に発現が増強する過剰発現マウスを作製した。本マウスでは出生後及び成体期での心筋分裂・再生能の向上が期待される。本マウスは正常に発生し、心筋組織像や心体重比は野生型と相違なかった。しかし、成体期心筋では分裂マーカーや細胞周期遺伝子の発現が増強しており、分裂能の向上が示唆された。一方、心エコー解析では加齢に伴い、逆に心機能が悪化しており、長期的且つ過剰な細胞周期活性による心機能悪化が示唆された。また、我々は心筋分裂にはFam64aの発現だけでなく、ユビキチンリガーゼAPC/Cによる同分子の周期的な分解が必須であることを突き止めた。今後は、成体期心筋にFam64a及びAPC/Cを適切に発現させ、細胞周期に応じたFam64aの周期的増減を再現することで、慢性的な過剰発現を防止し、心筋分裂・再生能の更なる向上を目指す。S70川 崎 医 学 会 誌

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