医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-7: ROCK阻害薬を用いた網膜色素上皮細胞の再生研究代表者:鎌尾 浩行(眼科学1)【目的】網膜色素上皮裂孔は、網膜色素上皮(RPE)が欠損することで重篤な視力障害が引き起こす疾患で、臨床における治療方法がない。そこでin vitroにおけるRPE欠損モデルを用いてROCK阻害薬の創傷治癒に関して検討した。【方法】ROCK阻害薬であるY27632を10µM添加し胎児RPEを培養した。評価項目は、細胞接着を発光試験による細胞接着数と免疫細胞染色による細胞面積と接着斑の主要な構成蛋白であるvinculin面積で評価し、創傷治癒を創傷被覆率と細胞移動距離をタイムラプスイメージングで評価した。【結果】コントロールは細胞接着数が50904 cells、細胞面積が2214 µm2、接着斑面積が3.65 µm2、Y27632添加群は細胞接着数が77317 cells、細胞面積5961 µm2、接着斑面積が0.66 µm2と、Y27632によりRPEの有意に細胞面積は拡大し細胞接着は低下した。また、創傷被覆率はコントロールが59.4%、Y27632添加群が92.5%、細胞移動距離はコントロールが98.9、Y27632添加群が203.4と、Y27632により有意にRPEの細胞移動距離が増加し創傷被覆率が上昇した。【結論】ROCK阻害薬であるY27632はRPEの細胞接着を低下させることで、in vitroにおける創傷治癒過程の細胞移動距離を増加させ創傷治癒が改善した。このことから、ROCK阻害剤は網膜色素上皮裂孔の治療薬となる可能性が示唆された。29基-83:筋疾患・心疾患の新規バイオマーカーの臨床応用 研究代表者:大澤 裕(神経内科学) 筋疾患・心疾患の迅速診断は治療選択と予後決定に重要な役割を果たす。これまで、バイオマーカーとして血清クレアチンキナーゼ(CK)が50年以上使われてきたが、その筋疾患・心疾患特異性には問題があり、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、悪性腫瘍など、様々な病態において上昇する。とりわけ心筋梗塞では、冠動脈閉塞からCK上昇までにtime lagがあることが超急性期診断の障壁となっている。 これまで、CKに代わる、Myoglobin, Troponin T, Troponin I, F-ABPなどのマーカーが提案されてきたが、依然として、その疾患特異性・迅速診断性には様々な問題がある。われわれは、各種筋疾患・心疾患で、これまで知られていなかった蛋白質Aが血中に出現、とりわけ心筋梗塞急性期に出現ピークを迎えることを見出した(未発表)。さらに筋芽細胞の筋管分化の過程でこの細胞膜蛋白質が、培養上清に分泌される現象も捉えた(未発表)。本研究は、この独創的発見をシーズとし、蛋白質A のELISAによる定量系に樹立に取り組み、本年度は捕捉抗体と検出抗体の最適化に成功した。次年度は、患者血清の蛋白質Aの定量により、CK値との比較解析を予定している。 本学からCKに卓越する特異性・迅速性を示す新規バイオマーカーの発信を目指す。― 新分子・新技術 ―S67

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