医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-40: インフルエンザ発症における宿主免疫応答および交叉防御を担う宿主細胞の網羅的解析研究代表者:後川 潤(微生物学)【背景】インフルエンザウイルス感染により誘導される細胞性免疫は、液性免疫における抗原性が異なるウイルスに対しても交叉防御可能であるが、その詳細は不明である。我々は先行研究で、CD8+細胞が交叉防御賦与の責任細胞であり、その性状や生体内分布がウイルス感染後の時期により異なることを示唆する結果を得た。そこで、インフルエンザ感染後、異なる発症時期および臓器からCD8+細胞を分離して、それらの交叉防御能賦与活性について検討した。【材料と方法】C57BL/10マウスにパンデミック09型ウイルス(pdm09)を致死量以下で感染させ、発症期(感染4日目)と回復期(7日目)にマウスの脾臓(SPL)とリンパ節(LN)からCD8+細胞を分離して別のマウス(♀,4週齢)に移入した。移入2日後にpdm09と抗原性が異なるソ連型ウイルスをチャレンジ感染させ、体重・体温変動を指標として移入CD8+細胞による交叉防御活性を検証した。また、移入したCD8+細胞のフェノタイプをフローサイトメトリーで解析した。【結果と考察】強い交叉防御活性を示すCD8+細胞は発症期には主にLN中に存在し、徐々にSPLに移行している可能性が示された。発症期にSPL中に存在するCD8+細胞の交叉防御活性は低く、別の免疫細胞の関与が示唆された。現在、交叉防御を賦与する細胞の生体内分布とフェノタイプの解析を進めている。29若-1:HTLV-1の持続感染が免疫老化制御機構に及ぼす影響とその病因的意義の解明 研究代表者:瀬島 寛恵(微生物学) 近年、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の原因遺伝子であるがん抑制遺伝子men1の転写産物Meninが、免疫老化に伴うアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症にかかわる転写抑制因子であるBach2を標的として制御すること、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の転写制御因子HBZがMeninの機能を抑制することが相次いで報告された。そこで、Menin-Bach2経路によるCD4陽性T細胞の機能や細胞老化の制御にHTLV-1が及ぼす影響と、疾患発症への関連の解明を目的に研究を行った。 MeninとBach2はいずれも、HTLV-1の転写制御因子であるTaxおよびHBZの双方と相互作用することを共免疫沈降法により明らかにした。HTLV-1感染細胞株でTax遺伝子の発現をノックダウンした際にはBach2遺伝子の発現低下が認められたが、HBZ遺伝子のノックダウンでは変化が認められなかった。HTLV-1感染者の末梢血単核球におけるmenin遺伝子の発現を調べたところ、その発現量がHTLV-1感染細胞数と逆相関することを見出した。 これらの結果は、HTLV-1がその標的細胞であるCD4陽性T細胞に感染してMenin-Bach2経路に影響することで「免疫老化」によるT細胞機能異常をもたらし、HTLV-1関連疾患(ATL、HAM)発症に関与する可能性を示唆しており、現在さらなる解析を進めている。S58川 崎 医 学 会 誌

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