医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-96: 急性腎障害から慢性腎臓病への移行機序解明(内皮機能障害の役割と新規治療)研究代表者:春名 克祐(腎臓・高血圧内科学)【背景】急性腎障害(AKI)は従来、腎機能が回復する疾患として知られていた。しかし、多くの臨床的知見から一定の割合で慢性腎臓病(CKD)へ移行することが示されている(AKI to CKD transition)。一方、CKD進展において我々は「CKD発症・進展には内皮機能障害が重要な役割を担っている」との仮説を提唱し解明・報告してきた。以上のことから本研究ではAKIからCKDへの進展機序における内皮機能障害の役割について検討した。【方法】内皮機能として重要なeNOS-NO経路の意義を検討するためWT(C57BL/6)及びeNOS欠損マウス(eNOSKO)を用いた。1)片側腎摘2週間後に腎動脈を20分クランプし、虚血再灌流(I/R)モデルを作成した。I/R 4週間後に屠殺組織を検討した。2)NO下流のシグナルを検討するためPDE5阻害薬を用いて検討を行った。 eNOSKOにI/R7日後からPDE5阻害薬(5mg/kg/day)を投与し同様に組織を検討した。3)IRI後Day0,Day3Day7からLNAME投与を行いCKD進展におけるNOの継時的な意義を、WTを用いて検討した。【結果】腎線維化はWT-I/R群において認めず回復していたが、eNOS-I/R群において皮髄境界部中心に線維化を認めた。尿細管障害に関してはKIM-1染色を用いて評価したが同様の結果であった。そこで線維化の前病態として慢性炎症、特にInflammasome活性化に着目した。マクロファージ浸潤及びInflammasome関連遺伝子はWT-I/R群において一旦増加したものの4週時点で低下した。一方でeNOS-I/R群ではこれらの遺伝子発現は4週後まで持続的に増加した。また、これらの変化はPDE5阻害薬をIR作成後Day7からの投与で改善した。またL-NAME投与実験ではDay3,Day7でのNOS阻害でCKDへの進展を認めた。【結論】 eNOS/NO経路の破綻にInflammasome関連慢性炎症を抑制できず、AKI to CKD transitionを促進させる。29基-47: 肺線維症の発症・進展を左右する分子の探索研究代表者:岡本 安雄(薬理学) 特発性肺線維症は、慢性進行性の経過をたどり、高度の線維化が進行し不可逆性の蜂巣肺形成をきたす予後不良の難治性疾患である。今回、私たちは、肺線維症の発症や進展を左右する分子の探索を目的として、抗がん剤ブレオマイシン腹腔内反復投与肺線維症モデルマウスの肺を用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。ブレオマイシン4週間投与によって、発現量が2倍以上、または2分の1以下に変動した遺伝子の数は、それぞれ905個および732個であった。内訳を見ると、サイトカイン、p53シグナル経路、補体・凝固系、細胞外マトリックス、ケモカイン、細胞接着因子、Toll-like receptorシグナル経路などに関する遺伝子群の有意な変動が認められた。最近、免疫チェックポイント分子であるPD-1/PD-L1経路を阻害する免疫抗体療法が進行期肺がん治療において画期的な効果をもたらす一方、副作用として間質性肺炎が報告されている。PD-1/PD-L1経路にかかわる遺伝子変動を検討したところ、生理食塩水投与群と比較して、ブレオマイシン投与群の肺で、PD-1の遺伝子発現が6.2倍、PD-L2の遺伝子発現が2.3倍増加していた。以上の結果から、PD-1/PD-L2経路が肺線維化の発症・進展に関与している可能性が考えられた。S39

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