医学会誌44-補遺号[S30]
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29ス-2:糖尿病性血管障害の形成における性差の解明研究代表者:竹之内 康広(薬理学)【目的】一般に血管機能障害のリスクは、女性は男性に比べ低いことが知られているが、糖尿病ではそれは逆転することが報告されている。しかし、性差の逆転が生じる原因については不明である。本研究は、糖尿病性血管障害の形成における性差のメカニズムを明らかにすることを目的とした。【方法】ICRマウスにストレプトゾトシン(200 mg/kg; i.v.)を投与し、4週または12週経過したものを糖尿病モデルマウスとし、生理食塩水を投与した同週齢のマウスを対照群とした。胸部大動脈を摘出して、マグヌス法によりアセチルコリン(ACh)やクロニジンに対する血管反応性を測定した。【結果】糖尿病モデルマウスは対照群に比べ、4週経過後は雄ではACh、雌ではクロニジンによる血管弛緩反応に減弱が認められ、12週経過後は雄ではACh、雌ではAChおよびクロニジンの血管弛緩反応に有意な減弱が認められた。 【考察】AChはCa/カルモジュリン複合体を介して、クロニジンはPI3K/Akt経路を介して内皮細胞からの一酸化窒素(NO)遊離を引き起こす。また、エストロゲンの血管保護作用はPI3K/Akt経路を介したNO遊離によることが報告されている。本研究結果から、雌では早期にPI3K/Akt経路に障害が生じ、エストロゲンの血管保護作用が消失することにより、糖尿病による血管機能障害の雌雄の逆転が生じることが示唆された。29基-27: 2型糖尿病における細小血管合併症および大血管合併症発症に対する、経年的な代謝指標の変動が及ぼす影響研究代表者:中西 修平(糖尿病・代謝・内分泌内科学)【研究の臨床的背景】現在糖尿病診療ではHbA1cを指標とした血糖管理が行われているが、近年血糖コントロールの目標は単に正常化を目指すのではなく、個別に設定することが強調されている。【目的】当科外来患者の定期受診時におけるデータを用い、2型糖尿病治療の経年的なHbA1cと細小血管および大血管合併症の発症の関係を明らかにし、血糖管理の個別設定に資する情報を創出する。【対象と方法】当科外来を1年以上通院中の2型糖尿病患者において、観察開始時に細小血管合併症が確認されなかった2424名、大血管合併症が確認されなかった3316名を対象とした。Cox比例ハザードモデルを用い、65歳未満と65歳以上で観察期間中の平均HbA1cが両合併症に及ぼす影響について検討した。【結果】細小血管合併症に対する平均HbA1cは年齢に関係なく有意な規定因子であったが、大血管合併症については65歳未満群でのみ有意な規定因子となった。一方で平均HbA1cを6%未満にしても6~7%の群に比し有意な両合併症の抑制は認められなかった。【考察】すべての2型糖尿病患者においてHbA1cを指標とした細小血管合併症抑制を目指す治療には意義があると考えられるが、6%未満まで厳格にコントロールする意義は不詳であった。また65歳以上の2型糖尿病の大血管合併症抑制のためには、血糖以外のリスク管理をすることが重要と考えられた。S35

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