医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-64:コルチゾール合成・代謝・作用機構についての研究-血中ステロイド分画同時測定による評価-研究代表者:宗 友厚(糖尿病・代謝・内分泌内科学) コルチゾール(F)は、活性型グルココルチコイド(GC)の代表として、糖質のみならず脂質・蛋白質・核酸といった基本物質の代謝や循環調節を司る。その産生はフィードバック調節の代表である視床下部-下垂体-副腎系により巧妙に調節されるほか、11βHSDタイプ2によるコーチゾン(E)への不活化や、11βHSDタイプ1及びH6PDによるFへの再生(賦活化)、など受容体前の局所代謝も重要で、GC作用の総体的把握には産生~代謝の各ステップを反映する指標が必要である。本研究は、交叉反応や測定誤差を克服できるLC-MS/MS法を用いて、複数ステロイドの血中濃度を同時に定量し、各合成酵素活性(product/precursor比)やF~E間代謝状態の指標も加え、様々な検討を進めることが目的である。耐糖能正常者に於ける検討では、DHEA<F<S<17OHP5の順に強くACTHと正相関し、酵素活性も11β-hydroxylase<3βHSD<17,20-lyaseの順に強くACTHと負相関した。さらに収縮期・拡張期血圧はSや21-hydroxylase活性と正相関、脂質系ではHDL-CとF・PRAは正に相関、TChol・LDL-C・HDL-CはP4と正相関、糖代謝系ではFPGが17,20-lyase活性や11-oxoreductase活性と負相関、FIRI・HOMA-RがFや11-oxoreductase活性と負相関するなど、GC作用の各ステップが血圧調節や糖脂質代謝と多様に関連することが判明した。下垂体機能低下症を含め様々な原因に起因する副腎皮質機能低下症や副腎癌症例に於いても、合成酵素活性や血中濃度の総括的な把握が可能であった。また今回は、再発を繰り返しガンマナイフ治療を要したCushing病の1例に於いて、経過中の合成酵素活性と血中濃度の変動を見ることができ、診断や治療に際し極めて有用な方法であることが確認された。29基-33:糖尿病状態における膵β細胞でのGPR40発現機構の検討     -GPR40遺伝子発現におけるPDX-1の潜在的な役割-研究代表者:小原 健司(糖尿病・代謝・内分泌内科学) 糖尿病状態では、慢性の高血糖によるグルコール応答性インスリン分泌能(GSIS)やインスリン生合成能の低下の結果、糖毒性が引き起こされると考えられている。その原因の一つにインスリン転写因子であるPDX-1の低下が関連していることが挙げられる。またG蛋白質共役受容体であるGPR40 の欠損によりマウスでGSISが低下し、膵β細胞でのGPR40の過剰発現はGSISを増強し、耐糖能を改善するとの報告がある。 今回我々は、まず肥満2型糖尿病モデルであるdb/dbマウスを用いて高血糖状態におけるGPR40およびPDX-1の発現について検討した。糖尿病マウスの単離膵島では、正常マウスと比較してGPR40およびPDX-1の遺伝子発現の有意な低下を認め、膵切片の免疫染色でも同様の結果が得られた。次にGPR40とPDX-1との関連を調べるため、膵β細胞株であるMIN6細胞に干渉RNAを用いてPDX-1を発現抑制させたところ、遺伝子発現および蛋白発現ともにPDX-1の発現低下に伴ってGPR40の有意な発現低下を認めた。さらにアデノウイルスを用いてHeLa細胞にPDX-1を過剰発現させると、遺伝子発現および蛋白発現ともにPDX-1の発現の増加に伴ったGPR40の有意な発現増加を認めた。以上から、糖尿病状態におけるGPR40の発現低下には、少なくともPDX-1が重要な調節因子の役割をしていることが示唆された。S33

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