医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-87:細胞内鉄動態からみたマイトファジー誘導機序の検討研究代表者:原 裕一(肝胆膵内科学)【目的】ミトコンドリア障害はROS産生を亢進させ、酸化ストレスを誘導し、細胞・組織障害を引き起こす。一方、ミトコンドリア品質管理機構としてミトコンドリア特異的オートファジー(mitophagy)が存在する。近年細胞内鉄欠乏がmitophagyを誘導することが報告され、われわれもNASHモデルマウスに対して鉄キレート剤を投与することで、mitophagy誘導し肝脂肪化、肝発癌が抑制されることを明らかにしてきた。今回、細胞内鉄欠乏がmitophagyを誘導する分子機構について検討したので報告する。【方法】Huh-7に鉄キレート剤を添加しmitophagy制御分子の解析を行った。【成績】Huh-7に鉄キレート剤を投与するとmitophagyが誘導されROS産生が抑制されたが、オートファジー関連蛋白であるAtg5をノックダウンすると、ROS産生は増強した。DFP、DFX、DFOの順にミトコンドリア内Fe2+量は減少し、mitophagyも誘導された。DFPによるミトコンドリア鉄制御分子の動態について解析を行ったところ、ミトコンドリア内Fe2+減少に伴いミトコンドリアフェリチン(FtMt)の転写因子のひとつであるSP1の発現増強を介してFtMtの発現が増強した。一方、MtFtのノックダウンによりmitophagyは抑制された。MtFtはオートファジーのカーゴレセプターであるNCOA4と結合し、FtMtのミトコンドリア leader sequenceによりMtFt、NCOA4がミトコンドリアで共局在し、さらに隔離膜伸長に必要なLC3IIの局在も一致することを確認した。さらにFtMt、NCOA4の組み換え蛋白を作成して、両者の結合部位を同定するとともに、その特異的な結合を明らかにした。【結論、考察】細胞内鉄が欠乏するとFtMtがセンサーの役目を果たしてオートファジーのカーゴレセプターと結合し、mitophagyを誘導することが明らかとなった。29基-42: 食欲と肥満を制御する脂質分子の生合成に関わる新たなカルシウム依存性加水分解酵素の活性化機構の解明研究代表者:坪井 一人(薬理学) N-アシルエタノールアミンは食欲抑制などの多彩な生物活性を示す内因性の抗肥満脂質である。また、リゾホスファチジン酸(LPA)は、細胞増殖、癌細胞の浸潤などの生理作用を示すリゾリン脂質の一種である。我々は、グリセロホスホジエステラーゼ(GDE)・ファミリーに属する蛋白質であるGDE4およびGDE7が前駆体リン脂質からN-アシルエタノールアミンとLPAを生成するリゾホスホリパーゼD(リゾPLD)型加水分解酵素であることを見出し、その触媒特性を検討した。すなわち、ヒト腎臓HEK293細胞にヒトとマウスの両酵素を発現させた後、膜画分と放射標識前駆体リン脂質を反応させてN-アシルエタノールアミンおよびLPAを生成するリゾPLD活性を測定した。その結果、GDE4は2 mM Mg2+で活性化されたがCa2+は無効であった。対照的に、GDE7はµMオーダーのCa2+によって活性化されたが、mMオーダーのMg2+で活性は上昇しなかった。さらに、GDE4の発現により細胞内LPAレベルが、GDE7の発現により細胞内N-アシルエタノールアミンおよびLPAレベルが上昇した。従って、GDE4とGDE7はN-アシルエタノールアミンとLPAを同時に生成する新規リゾPLD型酵素であるが、前者はMg依存性を、後者はCa依存性を示すことが明らかとなった。― 消化器・代謝・腎 ―S32川 崎 医 学 会 誌

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