医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-41:脳塞栓による虚血が海馬の電気生理学的特性に与える影響研究代表者:氷見 直之(生理学2) 我々は脳梗塞後のリハビリテーションとして行う低強度運動が記憶能の低下を抑制することを脳梗塞モデルラットにて示した(H27年度プロジェクト研究)が、そのメカニズムを解明するために、神経細胞間の伝達効率の変化を電気生理学手法により示すことを目指している。 H28年度プロジェクト研究にて、マイクロスフェア(MS)を3,000個注入し脳塞栓を生じさせたモデルラットが運動障害をほとんど発現せずに空間記憶能(モリス水迷路)の低下がみられたことを示したが、このモデルを本研究にて用いることとした。脳塞栓ラットの作成法として、8週齢のSDラットを麻酔後頚部を切開し、外頸および翼口蓋動脈を一時的に閉止した状態で総頸動脈よりMS(径45μm)を注入した。MS注入後は止血し閉止動脈を再開させて回復させた。この塞栓により脳に生じた虚血を確認するために、MS注入前後の脳組織血流量の変化をレーザードップラー血流計にて測定した。3,000個のMS注入は海馬脳血流を有意に低下させた(76.2 ± 6.7 %)。また、sham群とMS注入群の海馬について電気生理学的手法にてCA3-CA1シナプスにおけるpaired pulse facilitation(PPF)を比較した。29ス-3:うつ様モデル動物におけるCa2+シグナル経路の変化 研究代表者:丸山 恵美(生理学2) うつ病は全世界人口の約4%が発症している、ごく一般的な疾患である。これまでうつ病の発症原因として様々な報告があるが、その発症メカニズムは解明されていない部分が多い。我々は今回Ca2+シグナル経路に着目し、その変化をうつ様モデルマウスを用いて検討した。うつ様症状の改善には電気けいれんショック(ECS)を実施した。まずC57BL/6J(♂、7-8w)をストレス群、ECS群、ストレス+ECS群、正常コントロール群の4群に分けた。ストレスとして拘束水浸負荷を連続15日間与えた。ストレスによるうつ様状態は、行動学的(強制水泳試験、自発運動量など)および組織学的(海馬歯状回における新生神経細胞数)に評価した。Ca2+シグナル経路のうち海馬内のpCaMKII/CaMKII、CaMKIV、リアノジン受容体各サブタイプ(RyR1,2,3)、イノシトール三リン酸受容体1(IP3R1)のタンパク発現量の変化をウェスタンブロッティング法でそれぞれ調べた。うつ様モデルマウスの海馬においてpCaMKII/CaMKIIおよびCaMKIVの変化は見られなかったが、RyRsのうちRyR1、RyR3が増大し、この増大はECSによって減弱された。一方、IP3R1に有意な変化は見られなかった。さらにRyRアンタゴニストであるダントロレンをECS処置前に腹腔内投与すると、ECSによるうつ様症状の改善効果が減弱された。以上の結果は、うつ様病態時にはRyRsを介したCa2+シグナル経路に何らかの変化が起こり、ECSがその変化を是正していることを示唆する。S26川 崎 医 学 会 誌

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