医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-88:嗅覚系梨状皮質における遠心性調節の構造基盤研究代表者:中村 悠(解剖学) 梨状皮質前方部(APC)の背側部(APCd)と吻側腹側部(APCvr)は、それぞれ嗅球出力細胞である僧帽細胞と房飾細胞から入力を受けている。各領域では異なる情報が処理されていると考えられるが、嗅球以外のどのような脳部位から入力を受けているかはよく分かっていなかった。本研究課題では、C57BL/6Jマウス(雄、8週齢)の梨状皮質において、高感度逆行性トレーサーであるFluorogold(FG)の微量電気注入を行った。その後、逆行性標識された細胞を免疫組織化学的に可視化し、標識細胞の局在を細胞構築学的に同定した。FGをAPCvrへ注入したところ、一次嗅皮質である前嗅核や蓋ひも、汎性投射系の起始核である縫線核、腹側被蓋野、Ch3細胞群、扁桃体を構成するAA核、nLOT核、BLA核に逆行性標識された細胞が多く観察された。APCdへ注入した標本では、同様に、一次嗅皮質や汎性投射系起始核で標識細胞が分布していたのに加え、嗅内皮質では5層を中心に細胞が標識されていた。一方、扁桃体の亜核からAPCdへの投射は確認できなかった。これらの結果から、APCは一次嗅皮質や生体アミン系からの入力については比較的一様に投射を受けているが、APCvrとAPCdはそれぞれ扁桃体と海馬傍回から優位に入力を受けることにより、情動や記憶といった高次機能に対して別々の役割を担っていることが示唆された。29基-109:マウス嗅球内網状層におけるシナプス神経回路の形態学的解析研究代表者:野津 英司(解剖学) 嗅球は嗅上皮からの嗅覚情報を処理し、より高次の中枢へ投射する領域である。この情報処理には介在ニューロンが重要な役割を果たすと考えられ、神経回路の解析が進められている。我々はこれまで、ラットを解析対象として用い、嗅球からの出力に関与すると考えられる深層部の内網状層(IPL)に位置する介在ニューロンについての解析を行い、calbindin(CB)を発現するニューロンと嗅球の主要な介在ニューロンである顆粒細胞(GC)との間に、抑制性とみられる対称性シナプスを確認した。GCは嗅球の投射ニューロンである僧帽細胞および房飾細胞の主要な抑制ニューロンとして知られており、IPLのCBニューロンは僧帽細胞および房飾細胞の脱抑制を行う神経回路を形成していることが示唆された。一方で、マウス嗅球IPL のparvalbumin(PV)に免疫陽性を示すニューロンが、ラットIPL-CBニューロンと同様の形態的な特徴、すなわち、比較的大型の細胞体を持ち、その樹状突起をIPLと平行に伸展することが報告されているがその詳細は明らかではない。本研究では、マウスIPLのPVニューロンを対象として免疫染色および電子顕微鏡による解析を行い、マウスIPLのPVニューロンがGABA免疫陽性を示し、IPLで対称性シナプスを形成していることを確認した。今後はこのシナプスがどのようなニューロンに形成されているか解析を進める。S24川 崎 医 学 会 誌

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