医学会誌43-補遺号
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28-基61:ゲノム編集技術を応用した肺扁平上皮癌に対する新規治療法開発 研究代表者:深澤 拓也(総合外科学) ヒトゲノム情報が、短時間で解読される中で、正確に遺伝子を操作することができるゲノム編集技術が、ここ数年で急速に進歩してきており、癌治療への応用が試みられてきている。古細菌などがもつ獲得免疫機構であるCRISPR/Cas系は、ファージなどを介して侵入する外来性のDNAを断片化して自らのゲノムに組み込み、2度目のファージ感染時に標的DNAを認識しこれを切断する。この原理を応用した、CRISPR/Cas9 システム(Mali P et al. Science. 6121: 823-826. 2013.)はゲノム上の任意の配列を2重鎖で切断することができ、目的遺伝子の欠失、また指定位置への挿入を可能とするのみならず、標的遺伝子発現制御に応用できる。肺癌関連遺伝子Aの抑制は、肺扁平上皮癌の進展を抑制し、Bの抑制はさらにこの抗腫瘍効果を増強することが報告されている。両遺伝子に対するgRNAを作製し、当該遺伝子を抑制するdCas9/KRABシステムを構築した。当該システムを発現するplasmid vectorは各遺伝子転写活性を抑制した。 またシステム発現できるrecombinant adenoviral vectorは遺伝子A、BのmRMAおよび蛋白発現を抑制した。 現在、両遺伝子制御による抗腫瘍効果の解析を行っている。28挑-5: 癌に対する活性化自己リンパ球誘導における抑制機構の解明とその制御研究代表者:山口 佳之(臨床腫瘍学) 切除不能進行再発がん患者を対象に2009年4月より活性化自己リンパ球移入療法としてZAK (zoledronate-activated killer)細胞移入の前向き観察研究を実施した。膵臓癌症例において標準化学療法との併用でサーバイバルベネフィットを報告した(Anticancer Res. 2016; 36: 2307)。 本療法の問題点のひとつとして6%の培養不成功例の存在があげられる。今回、培養方法の改善策を確立するため、以下の解析を行った。ZAK細胞増殖不良例では高頻度に大型付着性細胞が観察された。大型付着性細胞は健常者ZAK細胞誘導を著しく抑制した。同細胞の表面形質解析では、CD11b(+)CD14(+)DR(high,low,-)およびCD11b(+)CD14(-)CD33(+)が認められたがCD4(+)CD25(+)CCR4(+)細胞は認められなかった。培養10日目の大型付着性細胞、浮遊細胞それぞれからRneasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出し、全遺伝子型DNAチップ(東レ)を用いて網羅的遺伝子解析を実施すると、大型付着性細胞に特徴的に発現している分子が10分子程度同定された。抗分子X抗体を用いると、大型付着性細胞の抑制が解除された。 こうしたことから、大型付着性細胞はがん患者末梢血中に出現するZAK細胞誘導を抑制する細胞と考えられ、その抑制機能にはいくつかの分子が関連していると考えられた。S78川 崎 医 学 会 誌

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