医学会誌43-補遺号
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28基-29:新規同定遺伝子Fam64aを用いた心臓再生医療へ向けた基盤的研究研究代表者:橋本 謙(生理学1) 哺乳類の心筋細胞は胎児期には活発に分裂するが、出生後は分裂を停止する。従って、成体では失われた心筋細胞を再生出来ず、故に早急な治療戦略の開発が求められている。一方、両生類・魚類の一部では成体においても心筋の分裂能が残されている。我々は、心筋分裂が活発な両生類・魚類、及び哺乳類胎児に共通の特徴として「低酸素環境」に着目し、哺乳類では出生時の肺呼吸開始による酸素分圧の上昇が心筋分裂を停止させることを明らかにし、この過程に関わる最重要遺伝子としてFam64aを同定した。本年度は、心筋細胞におけるFam64aの機能を詳細に解析し、将来的な心筋再生に向けた基礎知見を得ることを目的とした。Fam64aは胎児期には心筋細胞の核に強く発現するが、酸素曝露下や出生後には減少した。Fam64aのknockdownにより分裂活性は減少し、逆に過剰発現により上昇したことから、Fam64aは分裂促進因子であると考えられた。更に、細胞周期の進行には1) Fam64aの十分な発現、及び2) 有糸分裂におけるユビキチンリガーゼAPC/CによるFam64aの分解、の両方が必要、即ち、Fam64a発現が細胞周期に合わせて周期的に増減することが重要であることを明らかにした。APC/Cによる分解が姉妹染色分体の分離直前に起こることから、Fam64aが何らかの機序で染色体分離を抑制しており、その分解により染色体分離が始まる、即ち、Fam64aは染色体分離のcheckpointとして機能することが示唆された。以上のデータはFam64aを用いた将来的な心筋再生へ向けた基盤的知見となる。28基-45:直接リプログラミングによる筋ジストロフィーのオーダーメード細胞療法の開発研究代表者:大澤 裕(神経内科学) マウス胎児線維芽細胞(MEF)への3転写因子の導入により人工多能性幹(iPS)細胞が樹立され、細胞ソースとして様々な体細胞へ分化させる再生医療が盛んである。ところがこの多能性リプログラミングに起因する癌化や誤分化の課題は克服されていない。一方、一旦分化した体細胞を別の体細胞に直接リプログラミングさせる戦略も注目されている。われわれは野生型及び筋分化転写因子Xを欠損したマウスからそれぞれMEFを採取し別の転写因子“X”、及び“Y”、“Z”を導入 し、筋細胞への直接リプログラミングの可否を、それぞれ検討した。野生型ばかりでなくX欠損マウスのMEFも、それぞれ単核の線維芽細胞から多核筋管細胞・筋線維様となりに収縮を始めた。この野生型線維芽細胞のリプログラミングでは、X、Y、 Zが、経過とともに発現した。同様にX欠損線維芽細胞の直接リプログラミングでは、Y、Zが経過とともに発現した。細胞を野生型マウスに移植すると筋線維に取り込まれ一部は筋組織幹(衛星)細胞マーカーを発現した。すなわち線維芽細胞から筋細胞への直接リプログラミングではY、ZがXより上流で制御し、筋組織幹細胞へ分化する階層が存在する。この直接リプログラミング戦略とヒト人工染色体を用いた遺伝子修復との組み合わせ治療について紹介する。S77

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