医学会誌43-補遺号
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28基-1: 乳癌・甲状腺癌における癌幹細胞制御メカニズムの解明を目指した基礎研究研究代表者:紅林 淳一(乳腺甲状腺外科学) 乳癌の内分泌療法に対する抵抗性の発生は、臨床の場において大きな問題となっている。しかし、内分泌療法抵抗性発生のメカニズムは、不明な点が多い。我々は、「エストロゲンによる癌幹細胞(cancer stem cells,CSC)の制御機構の破綻」が、内分泌療法抵抗性発生の一因となっているとの仮説を立てた。そこで、「幹細胞制御機構の要となるHedgehogシグナル伝達経路のeffectorであるGli1が、エストロゲン依存性乳癌細胞のエストロゲンによるCSC制御において重要な役割を果たしている」との仮説を検証することとした。マイクロアレイを用いた解析や定量RT-PCRやwestern blottingによる検討において、Gli1がエストロゲンによりnon-canonical pathwayを介して発現が促進されることが確認された。また、non-canonical Hedgehogシグナル伝達阻害薬GANT61がエストロゲンによるGli1の発現やCSC増加作用を阻害することが確認された。さらに、乳癌内分泌療法の効果を増強する目的で、GANT61と抗エストロゲン薬との抗腫瘍効果やCSC制御に関する相互作用を検討し、両薬剤の相加効果が確認された。これらの研究結果は、Cancer Science誌に掲載された。 さらに、治療に難渋するトリプルネガティブ乳癌に対するGANT61の細胞増殖抑制並びに癌幹細胞比率低下作用、抗癌化学療法パクリタキセルとの併用効果に関する研究を行い、これらの研究成果もBreast Cancer誌に掲載された。また、Src阻害薬dasatinibの甲状腺低分化・未分化癌細胞に対する細胞増殖抑制並びに癌幹細胞比率低下作用に関する基礎研究も行った。28基-14:乳がんの免疫寛容因子についての免疫組織学的検討 研究代表者:鹿股 直樹(病理学2) Indoleamine 2,3 dioxygenase (以下IDO)は宿所が免疫反応を介して腫瘍細胞を排除しようとする際に、抑制的に働くことが知られている。乳がんでIDOを発現する症例があることが既に知られている。一部の乳がん症例ではIDOが予後不良因子とされているが、臨床病理学的検討は十分には行われていなかった。今回は220症例の浸潤性乳がんで、IDOを免疫組織学的に検討した。IDOは217例(98.6%で)で少なくとも10%以上の陽性率を示した。年齢(p=0.579)、pT (p=0.861)、pN (p=0.583)、M (p=0.873)、ステージ(p=0.586)、核異型度(p=0.149)、PgR (p=0.206)、HER2 (p= 0.148)とは有意な相関はみられなかったが、ER 陰性症例ではER陽性症例よりIDO発現は高く(p=0.01)、組織学的異型度とKi-67 indexは各々、高い方がIDO発現も高かった(p=0.045、0.001)。無再発生存率と全生存率では、各々有意差はみられなかった(p=0.890、0.843)。乳がんのIDO発現は、ER陰性症例および組織学的高異型度症例、Ki-67高値症例で高かった。すなわち、術後の化学療法や分子標的療法がより必要とされる症例での治療オプションが増える可能性があるものと考える。S57

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