医学会誌43-補遺号
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28基-108: コルチゾール合成・代謝・作用機構についての研究-血中ステロイド分画同時測定による評価-研究代表者:宗 友厚(糖尿病・代謝・内分泌内科学) コルチゾール(F)は、活性型グルココルチコイド(GC)の代表として、糖質のみならず脂質・蛋白質・核酸といった基本物質の代謝や循環調節を司る。その産生はフィードバック調節の代表である視床下部-下垂体-副腎(HPA)系により巧妙に調節されるほか、11βHSDタイプ2による コーチゾン(E)への不活化や、11βHSDタイプ1及びH6PDによるFへの再生(賦活化)、など受容体前の局所代謝も重要で、GC作用の総体的把握には産生~代謝の各ステップを反映する指標が必要である。本研究は、交叉反応や測定誤差を克服できるLC-MS/MS法を用いて、複数ステロイドの血中濃度を同時に定量し、各合成酵素活性(product/precursor比)やF~E間代謝状態の指標も加え、様々な検討を進めることが目的である。耐糖能正常者に於ける検討では、DHEA<F<S<17OHP5の順に強くACTHと正相関し、酵素活性も11β-hydroxylase<3βHSD<17,20-lyaseの順に強くACTHと負相関した。さらに収縮期・拡張期血圧はSや21-hydroxylase活性と正相関、脂質系ではHDL-CとF・PRAは正に相関、TChol・LDL-C・HDL-CはP4と正相関、糖代謝系ではFPGが17,20-lyase活性や11-oxoreductase活性と負相関、FIRI・HOMA-RがFや11-oxoreductase活性と負相関するなど、GC作用の各ステップが血圧調節や糖脂質代謝と多様に関連することが判明した。下垂体機能低下症を含め様々な原因に起因する副腎皮質機能低下症に於いて、合成酵素活性の低下や血中濃度の総括的な把握が可能であった。また稀少な疾患であるCushing症候群をきたした副腎癌症例の1例に於いて、術前後や化学療法中の合成酵素活性と血中濃度の把握が可能であり、診断や治療に際しても極めて有用な方法であることが確認された。28基-21:膵β細胞機能障害(ブドウ糖毒性)の分子メカニズムに基づいた新規糖尿病治療薬の探索研究代表者:金藤 秀明(糖尿病・代謝・内分泌内科学) インスリンは血糖降下作用を有する極めて重要なホルモンであるが、その発現を制御しているのが転写因子MafAおよびPDX-1であり、申請者らは一貫してその研究に携わっている。そうした中で申請者らは、高血糖毒性による膵β細胞障害にはMafAおよびPDX-1の発現の低下が深く関与すること、また高血糖を是正すればこうした因子の発現が回復することなどを報告している(Okauchi S, Kaneto H et al. BBRC, 2016; Kimura T, Kaneto H et al. Mol Cell Endocrinol, 2015; Hirukawa H, Kaneto H et al. Mol Cell Endocrinol, 2015)。さらに、Cre-loxPシステムを用いて膵β細胞特異的に、またタモキシフェン誘導性にMafAを発現する肥満2型糖尿病モデルマウスを作成し検討した結果、MafAの発現を保持させておくと、インスリン生合成、グルコース応答性インスリン分泌が回復し、血糖コントロールが改善することも報告しており(Matsuoka T, Kaneto H et al. J Biol Chem, 2015)、MafAの発現低下が膵β細胞機能障害に深く関与していることが明らかとなっている。こうした基礎検討によって高血糖毒性の分子機構は解明されてきているものの、これは遺伝子改変マウスを用いているため、実臨床にすぐに応用することは難しい。またこれまでにはMafAやPDX-1の発現を直接増加させる薬剤のスクリーニングは行われてない。こうした中で今回の研究においては、各種小分子化合物ライブラリーを用いて、高血糖毒性で低下するMafAやPDX-1の発現を直接増加させる薬剤や因子を網羅的に検索し、膵β細胞機能障害の分子機構に基づいた新規糖尿病治療薬の探索を行っている。S40川 崎 医 学 会 誌

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