医学会誌43-補遺号
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28基-12:虚血脳組織の電気生理学的特性研究代表者:氷見 直之(生理学2) 軽度な、または一過性の脳虚血により認知障害が生じることがあるが、その際に神経細胞が受ける虚血ダメージの程度はあまり議論されていない。一過性脳虚血(TIA)後の障害を抑えることを考えた場合、比較的軽度な虚血時における神経細胞の活動状態を把握することは必須であり、本研究では電気生理学的な手法により細胞活動面からこれを解析し行動の変化と関連付けることを目的とした。 実際に電気生理の測定を行う前に、神経細胞死が生じないレベルの微小梗塞モデルを確立する必要があり、従来より使用してきたマイクロスフェア(MS)脳塞栓モデルを見直した。8週齢のSD ラットを麻酔後頚部を切開し、外頸および翼口蓋動脈を一時的に閉止した状態で総頸動脈よりMS(径45μm)を注入した。MS注入後は止血し閉止動脈を再開させて回復させた。1週後に認知機能 (空間記憶能)を水迷路試験で確認し、その後脳を摘出しHE染色およびTUNEL染色により梗塞部位と細胞死を確認した。 MSの注入個数が3,000個を超えると空間記憶能の悪化が認められた。また3,500個を超えると海馬に梗塞巣が確認されるようになり、4,000個で細胞死が見られ始めた。この結果からMSの注入個数を3,000個とした軽度脳梗塞ラットを認知機能障害モデルとし、来年度よりこれらのラットの脳スライス標本を用いた電気生理実験に着手する。28基-76:脳梗塞後のリハビリテーションに引き起こされる下行性運動神経回路変化の解析研究代表者:岡部 直彦(生理学2)【背景】リハビリテーションによる機能回復では残存した神経回路の再構成により、障害された神経回路の機能が補われると考えられている。例として皮質脊髄路の軸索リモデリングが起こることが過去の研究から分かっている。脊髄への神経回路として皮質脊髄路以外に脳幹からの回路があ る。この脳幹脊髄路は運動の実行に不可欠であり、脳障害からの回復過程にも重要な役割を果たしている。しかし、リハビリテーションが脳幹脊髄路にどのような影響を与えるのかは分かってい ない。【方法】一次運動野を光塞栓による脳梗塞で破壊したのちに前肢のリハビリテーションを4週間行った。リハビリテーション終了後に逆行性トレーサーであるFastBlueを障害側尾側頸髄(脊髄の前肢支配領域)に注入し、脊髄へ神経接続を持つ神経細胞の分布を調べた。【結果】行動試験において前肢のリハビリテーションはtask-specificな機能回復を促進した。組織学的検査において、リハビリテーションは障害側大脳皮質の二次運動野及び二次感覚野に存在するFastBlue陽性細胞の数を増加した。しかし、中脳、橋、延髄では、リハビリテーション群と非リハビリテーション群の間にFastBlue陽性細胞数の有意な変化は見られなかった。【結論】一次運動野の脳梗塞後のリハビリテーションによる機能回復では、脳幹脊髄路より皮質脊髄路が中心的な役割を果たしていると考えられる。S28川 崎 医 学 会 誌

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