医学会誌43-補遺号
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28基-89: 高血圧患者の心房細動新規発症におよぼす各種降圧薬の影響:propensity score matching法を用いた検討研究代表者:堀尾 武史(総合内科学1)【目的】高血圧症に対するレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RASI)の心房細動発症予防効果に関して、まだ定まった見解は得られていない。本研究では、高血圧患者においてRASIならびに他の降圧薬が心房細動の新規発症におよぼす影響を調査した。【方法】心エコー検査を施行した高血圧患者のデータベースを基に、検査時洞調律で発作性心房細動の既往や器質的心疾患を有しない例を対象とした。後向き縦断的観察研究(平均観察期間4.5年)にて以下の検討を行った。Study 1:心房細動発症に影響をおよぼす各種降圧薬の検討(N=1022)、Study 2:propensity score matching法を用いたRASIの心房細動発症抑制効果の検討(N=652)。【成績】Study 1:Cox比例ハザード多変量分析にてRASI、Ca拮抗薬、β遮断薬および利尿薬の心房細動発症に対する影響をみた結果、RASIのみが有意な抑制を示したが(P=0.022)、Kaplan-Meier分析ではその効果は有意に達しなかった(P=0.057)。Study 2:RASIの使用に対するpropensity scoreを算出し、1:1(各群N=326)でmatchingを行った結果、左房径、左室重量係数を含む全背景因子にRASI投与の有無で差を認めなかったが、心房細動の発生頻度はRASI(-)群に比べRASI(+)群で有意に低く、Kaplan-Meier曲線での累積発生率もRASI(+)群で有意に減少していた(P=0.013)。【結論】日本人高血圧患者においてRASIの使用は心房細動の新規発症を抑制することが縦断的観察研究、とくにpropensity score matching法を用いた解析にて明確に示された。28基- 80: コネクチン分子の構造解明による心室拡張機能の比較生理学的検討研究代表者:毛利 聡(生理学1) 心臓の機能は収縮能と拡張能に分けられる。収縮障害は様々な疾患で惹起されるが、拡張障害による心不全は明白な疾患を伴わなくても出現することが認識されてきた。なぜ我々の心臓は容易に拡張障害に陥るのか?本研究では広範な脊椎動物の心臓を比較することで我々の心臓が辿って来た進化過程と病態の解明を目的とする。拡張能は心室形態、Ca動態など多因子によって規定されるが、心筋伸展特性を制御するバネ分子コネクチンの構造も重要な要素である。コネクチンは分子量300万の生体内最大分子であり、バネのような弾性を持つN2B領域やPEVK領域(プロリン:P、グルタミン酸:E、バリン:V、リシン:Kが70%以上を占める)を有する。活動性の高い哺乳類のN2B領域の大きさは(ヒト:927aa、カモノハシ:913)や鳥類(ニワトリ:881)、爬虫類(ワニ:978)であり、活動性の低い両生類(カエル:1210)、爬虫類(トカゲ:1282、カメ:1302)と比較して短縮していた。PEVKも同様の傾向で、肺呼吸する脊椎動物のうち心臓の拡張性を制限してきたグループが高い活動性を獲得してきたことが明らかになった。拡張性制限の理由は、強いポンプ機能を持つ冠循環心臓の拡張期優位な血流の維持ではないかと考えている。我々の心臓は進化と伴に拡がりにくくなっており、心肥大など付加的な拡張能低下による心不全発症は心臓進化の影かもしれない。S21

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