医学会誌43-補遺号
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28基-85: 遺伝的安定性に優れた新規インフルエンザワクチン製造株を用いたパンデミックワクチン開発・製造迅速化の試み研究代表者:内藤 忠相(微生物学) 現行のインフルエンザワクチン(HAワクチン)の問題点として、ワクチン製造時における抗原変異の影響が挙げられる。ワクチン株の大量培養には発育鶏卵を使用するため、ワクチン製造用ウイルスは予め鶏卵を用いて継代を行い、鶏卵増殖に馴化するアミノ酸置換を挿入させて鶏卵での増殖性を高める必要がある。しかし、継代中において、同時にHAタンパク質の抗原部位に変異が導入してしまうことでワクチン効果が減弱する場合がある。本研究は、この問題を解決するために「抗原変異が入りにくい新規ワクチン製造株の開発」を目的とした。 ワクチン製造株であるインフルエンザウイルスPR8株のPB1ポリメラーゼを改変することで(PR8-PB1-V43I株:43番目のValをIleに置換)、ゲノム複製中の変異導入効率を半減させることに成功した。PR8-PB1-V43I株を母体として2009年にパンデミックを起こしたA(H1N1)pdm株に対するワクチン種株を作製し、発育鶏卵を用いて増幅させた結果、従来の製造株を用いた場合はHAに鶏卵馴化変異(Q223R)に加えて抗原変異(K154N、G155E)が生じたが、PR8-PB1-V43I株を使用することで鶏卵馴化変異のみが導入され抗原変異が起きなかった。今後は、この高忠実性ワクチン製造株を用いることで、現在問題となっている弱毒生ワクチンの病原性復帰変異株の出現を抑えられるか検討を行う。28挑-6:感染行動パターンを指標にしたインフルエンザウイルスの感染性および宿主特異性の評価研究代表者:堺 立也(微生物学) インフルエンザウイルスは、宿主細胞のエンドサイトーシスを利用し細胞内に侵入し感染する。エンドサイトーシスのおきる領域は細胞表面の一部に限られるため、細胞表面に吸着したウイルスは、エンドサイトーシス領域まで移動しなければならない。我々はこれまでの研究で、ウイルスのヘマグルチニンとノイラミニダーゼが細胞表面を移動するための運動装置として働くこと、運動によりエンドサイトーシス領域までウイルスが到達する効率が上がることを明らかにした。では、どのようなウイルスの運動様式がヒト細胞への感染効率を高めるのだろうか。そこで我々は、ノイラミニダーゼの活性部位に変異を導入したウイルスを作製し、変異ウイルスの運動パターンとヒト呼吸器由来のA549細胞およびイヌ腎由来のMDCK細胞への感染性の関係を調べた。ところでウイルス運動には、漸進的な運動(crawling)と跳躍的な運動(gliding)が存在する。今回、glidingの頻度が一定レベル以上のウイルスが、両細胞への感染性が高いことが明らかになった。また低レベルの運動能は、A549細胞への感染では逆効果であることも分かった。以上のことはヒト由来細胞への感染に対し最適のウイルス運動パターンが存在することを示唆する。今後ヒトウイルスに特徴的な運動パターンをあきらかにすることで、ウイルスのヒトへの感染性を決める要因を特定することが期待できる。― セッション4 ―S20川 崎 医 学 会 誌

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