医学会誌43-補遺号
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27特-1:肝細胞癌標的治療薬としてのDPP-4阻害剤の分子生物学的解析 研究代表者:仁科 惣治(肝胆膵内科学)【目的】肝細胞癌(HCC)に対するDPP-4阻害剤(anagliptin)の抗腫瘍効果について検討した。【方法】検討1;BALBc-nu/nu に対しDPP-4陽性Huh7細胞を皮下移植し、腫瘍発生後にMF食およびDPP-4阻害剤添加MF食を投与し、抗腫瘍効果を検討。検討2;リアルタイム細胞動態解析装置(EZ-TAXIScan)を用いて、肝癌細胞へのNK細胞走化性に対するDPP-4阻害剤の効果を検討。【結果】検討1;DPP-4阻害剤は腫瘍組織におけるNK細胞浸潤亢進と共に有意な腫瘍増大抑制効果を認めたが、CXCR3中和抗体もしくはNK depletion(抗アシアロGM1)の投与により腫瘍増大抑制効果がキャンセルされた。検討2;DPP-4阻害剤はCXCL10によるNK細胞の腫瘍細胞への走化性を亢進させたが、この効果はCXCL10中和抗体によりキャンセルされた。したがって、DPP-4阻害剤はCXCL10の不活化を抑制することでNK細胞走化性を亢進させると考えられた。【結語】DPP-4阻害剤はin vivo において肝腫瘍増大抑制効果を認めた。この作用機序として、DPP-4活性はCXCL10-CXCR3 axisを介したNK細胞の走化性を阻害するが、DPP-4阻害剤はこれを抑制することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられた。26特-2:インスリン抵抗性宿主における大腸発がんメカニズムの解析研究代表者:鶴田 淳(消化器外科学)【背景】TIGAR(TP53-induced glycolysis and apoptosis regulator)は解糖を抑制しペントースリン酸経路(PPP)を活性化し癌細胞の代謝性要求に応えるp53下流分子である。Warburg効果との関連は不明だがPPPへの効果の点では同じである。【目的】インスリン抵抗性発がんにおけるTIGARの役割を検証する。【方法】In vitro:ヒト大腸癌細胞株(HT29、HCT116、HCT116 p53-/-、Caco-2、DLD-1)にて低濃度インスリン(20nM)の長期間刺激下(4、8、12週間)でのTIGAR、Aktの発現を検証した。In vivo:5週齢雌C57BL/6(対照群)、2型糖尿病モデルKK-Ay(試験群)に普通食群(BD)、高脂肪食群(HFD)を与えた4群にてTIGARの臓器特異性の解析を行った。【結果】In vitro:ヒト結腸がん細胞DLD-1に対して慢性的に低濃度インスリン暴露(Chronic Insulin Exposure:CIE、20nM、4weeks)を行った結果、有意なTIGAR、Akt タンパクレベルの発現を認めた(Western blot)。In vivo:KK-Ayは対照群に比べて、肝、膵、大腸組織におけるTIGAR mRNAレベルが高発現していた(real time PCR)。またHFD負荷KK-Ayにおける膵β細胞の免疫組織染色においてp53非依存性TIGARタンパクの高発現を認める一方、HFD負荷KK-Ay大腸組織ではTIGAR mRNAは対群に比較して有意に減少していた。【結語】高インスリン血症や糖尿病状態ではTIGARは高発現する傾向を認めた(肝、膵、大腸)。TIGAR発現には臓器特異性があることが示唆されたが、詳細は今後の検討課題である。現在TIGAR KOマウスを用いて大腸2段階発がんモデルの作成等を行い表現型の検証を行っている。― セッション1:特別推進研究 ―S14川 崎 医 学 会 誌
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