医学会誌42-補遺号
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27基-55:先天性赤血球膜異常症の赤血球膜EMA結合能低下の病態解明に向けて 研究代表者:中西 秀和(血液内科学)【緒言】遺伝性球状赤血球症(HS)は赤血球膜蛋白異常(spectrin、ankyrin、band 3、P4.2)に起因する疾患であるが、従来の赤血球膜蛋白検査(SDS-PAGE)では必ずしも病因遺伝子変異に該当する膜蛋白異常を表現しておらず、約30%の症例で膜蛋白異常を同定できない。我々はHSの新たな検査法として、赤血球膜EMA結合能をフローサイトメトリーで評価する方法に注目し、同検査の有用性を検討した。【対象】HS113例(spectrin単独欠損14例、ankyrin関連欠損9例、band 3関連欠損21例、P4.2部分欠損24例、膜蛋白欠損未検出群39例)、P4.2完全欠損症6例、HE25例(P4.1欠損8例、 spectrin欠損10例、膜蛋白欠損未検出群7例)【結果】MCF (% of control)値は、spectrin欠損79.8±7.5%、ankyrin欠損73.9±3.3%、band 3欠損73.9±6.0%、P4.2部分欠損76.7±7.6%、膜蛋白欠損未検出群74.5±7.7%、P4.2完全欠損85.7±2.6%といずれも低値であった。これに対して、HEでは、spectrin欠損79.7±7.4%、P4.1欠損95.9±2.8%、膜蛋白欠損未検出群96.3±3.6%であり、spectrin欠損で低値を示した。【考察】EMA結合能はHS全病型において低下しており、HSにおける診断法として有用である。HEにおけるEMA結合能の低下は、spectrin欠損型に特異的と推察されるが、既報はなく、症例数の少ない遺伝性有口赤血球症(HSt)を含めてさらなる症例の蓄積による検討を要する。27挑-3:感染行動解析によるインフルエンザウイルスのヒトへの感染性の評価研究代表者:堺 立也(微生物学) インフルエンザウイルスは、宿主細胞のエンドサイトーシスを利用し細胞内に侵入し感染する。エンドサイトーシスのおきる領域は細胞表面の一部に限られるため、細胞表面に吸着したウイルスは、エンドサイトーシス領域まで移動しなければならない。我々はこれまでの研究で、ウイルスがヘマグルチニンと受容体(シアロ糖蛋白質あるいはシアロ糖脂質)の結合を入れ替えることで細胞表面を移動(運動)すること、この運動には受容体破壊酵素であるノイラミニダーゼも関与すること、運動によりウイルスがエンドサイトーシス領域まで到達する効率が上がることをあきらかにした。では、どのようなウイルスの運動様式がヒト細胞への感染効率を高めるのだろうか。そこで我々は、ノイラミニダーゼの活性部位に変異を導入したウイルスを作製し、変異ウイルスの運動パターンとヒト呼吸器由来のA549細胞への感染性の関係を調べた。ところでウイルスの運動様式は、漸進的な運動(crawling)と跳躍的な運動(gliding)が存在する。今回、glidingの頻度の高いウイルスが、A549細胞への感染性の高いことがあきらかになった。ウイルスは、大半の時間はcrawling運動を行うが、数%のgliding運動が加わることで飛躍的に移動距離が伸びる。Gliding頻度を上げることでウイルスはよりすみやかにエンドサイトーシスの領域に到達することができ、結果的に感染効率が上がったものと考えられる。S66川 崎 医 学 会 誌

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