医学会誌42-補遺号
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27基-24:治療適応を意識した、卵巣癌の病理組織学的特性に関する研究研究代表者:森谷 卓也(病理学2) 川崎医科大学附属病院において1990年1月より2014年4月までに手術がなされ、病理検体が保管してある卵巣腫瘍(原発性および二次性)のうち、上皮性悪性腫瘍102例を抽出した。症例は病理ファイルより抽出し、既成の病理組織標本を観察し、組織型と、癌の場合はグレードについて再分類した(漿液性腺癌35例、粘液性腺癌17例、類内膜腺癌19例、明細胞腺癌18例、混合型5例、その他の原発癌2例、転移性癌6例)。 次に、最も頻度が高い卵巣癌である漿液性腺癌と、本邦女性に多く治療抵抗性の明細胞腺癌について、血管増殖抑制因子vasohibin-1(VASH-1)と、抗VEGF受容体(flk-1)、血管内皮(CD31)、リンパ管内皮(D2-40)に対する免疫組織染色を行った。腫瘍組織内のVASH-1の発現率(VASH1陽性血管/CD31陽性血管)は、漿液性腺癌が明細胞癌に比べ有意に高かった(p=0.03)。しかしFlk-1、D2-40、p53、Ki-67の発現率については両群間に有意差は認めなかった。また、進行期別の差も明らかではなかった。以上から、血管増殖抑制因子発現の差が明細胞癌の治療抵抗性に起因している可能性が示唆された。さらに、細胞増殖マーカーはG1/S期(MCM7, Cdt1, PCNA)、S/G2/M期(topoisomerase IIα,cyclin A,PHH3,Geminin)アポトーシスはcleaved caspase 3, ssDNAを指標として検討中で、特に明細胞腺癌が化学療法抵抗性を示す機序が細胞周期のどこに存在するのかを明らかにしていきたい。27基-80:分子マーカーから見た非小細胞肺癌の化学療法に対する耐性獲得と治療効果に関する研究研究代表者:中田 昌男(呼吸器外科学)【目的】癌幹細胞は、自己複製機能と分化能を有する細胞であり、予後因子や治療標的として注目されている。非小細胞肺癌の術前に化学(+放射線)療法を行った症例の腫瘍における幹細胞マーカーの発現を検索し、その臨床病理学的意義について検討した。【対象と方法】2007年10月から2013年7月に当院で術前導入療法後に手術を施行した非小細胞肺癌15例に対して、癌幹細胞マーカーとして知られているALDH1A1およびCD44の免疫染色を行い、導入療法後の病理学的治療効果やPET-CT所見、予後との関連について検討した。【結果】年齢は平均63歳(47歳~69歳)、性別は男性14例、女性1例。組織型は腺癌6例、扁平上皮癌7例、その他2例。病理組織学的治療効果(Ef)はEf3 2例、Ef2 4例、Ef1b 2例、Ef1a 7例であった。原発巣の腫瘍細胞におけるALDH1A1の発現はHigh 12例 Low 3例、CD44 High 7例 Low 8例であった。導入療法後の腫瘍細胞におけるALDH1A1およびCD44の発現強度と再発や死亡には有意な相関は認めなかったものの、治療効果判定がEf 1a, 1bの症例において有意にALDH1A1が 高発現であり(p=0.017)、Ef2以上でもALDH1A1が高発現であった3例では再発を認めた。再発を認めなかった8症例中、Ef2以上であったのは3例で、その全てにおいてALDH1A1は低発現であった。またSUVmaxの減少率が70%以下であった9症例では有意にALDH1Aが高発現であった(p=0.018)。【結語】ALDH1A1の発現と導入療法後の治療効果には関連があることから、治療抵抗性の獲得に癌幹細胞マーカー陽性の細胞が関与している可能性が示唆された。S56川 崎 医 学 会 誌

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