医学会誌42-補遺号
54/102
27基-69:鉄キレートによるマイトファジー誘導とHCV関連肝発癌の抑制研究代表者:日野 啓輔(肝胆膵内科学) われわれはこれまでにHCVがミトコンドリアの品質管理であるマイトファジーをParkin依存性に抑制することで、酸化ストレスを増幅かつ持続させ、肝発癌に至ることを明らかにしてきた(Am J Pathol 2014)。一方、Parkin非依存性に鉄キレートによる細胞内の鉄欠乏状態がマイトファジーを誘導することが報告された(EMBO reports 2013)。そこで、HCV感染細胞ならびにHCVトランスジェニックマウスを用いて鉄キレート剤(Diferiprone, DFP)がHCVによるマイトファジーの抑制を解除しうるか否かを検討した。In vitro、in vivoともにDFPはHCV存在下でもマイトファジーを誘導し活性酸素種(ROS)の産生を抑制した。DFPはミトコンドリア内の2価鉄を減少させ、同時にミトコンドリアフェリチン(MtFt)の発現を促進した。興味深いことにMtFtの発現をsiRNAで抑制するとDFPによるマイトファジーの誘導が抑制された。以上の成績から、MtFtはDFP誘導性マイトファジーに重要な役割を果たすと考えられるため、今後はMtFtによるマイトファジー誘導機序についてさらに解析する。本研究において鉄キレートによるHCV感染下でのマイトファジー抑制解除機構を明らかにすることができれば、HCVに起因する酸化ストレスを抑制することが可能になり、ひいては肝発癌抑制のストラテジーに成り得ると思われる。27基-1:乳癌・甲状腺癌における癌幹細胞制御メカニズムの解明研究代表者:紅林 淳一(乳腺甲状腺外科学)【目的】ホルモン感受性乳癌細胞では、エストロゲン (E2)により細胞増殖が促進されるとともに癌幹細胞(CSC)比率が増加する。E2のCSC制御機構に関しては不明な点が多い。E2によるnon-canonical経路を介したヘッジホッグ(HH)シグナル伝達の活性化がCSCの増加に寄与していることが報告されている。我々は、non-canonical HH経路を阻害するGANT61を用い、ホルモン感受性乳癌細胞に与える影響を検討した。【方法】4種類のエストロゲン受容体陽性細胞株を用いGANT61の細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、CSC比率、Gli1/2/3,sonic HH発現に与える影響を検討した。抗エスロトゲン薬との併用効果も検討した。【結果】GANT61はすべてのER陽性乳癌細胞株に対し、E2で誘導された増殖促進効果を用量依存性に抑制し(50%増殖阻止濃度は約10μM)、G1-Sブロックおよびアポトーシス誘導を示した。GANT61はE2で誘導されたGli1/2及びsonic HHのmRNA発現の促進およびCSC比率の増加を阻害した。抗エスロトゲン薬との併用では、4細胞株中2細胞株において、有意の相加的抗腫瘍効果を示し、CSC比率も低下した。【考察】GANT61は、E2によるnon-canonical経路を介したHHシグナル伝達を抑制し、CSCの増加を阻止した。 GANT61は、E2で誘導された増殖促進効果を阻害する効果もあり、抗エスロトゲン薬との併用により相加的な抗腫瘍効果も期待できる。GANT61はホルモン感受性乳癌細胞の新規治療薬として有望である。【追記】トリプルネガティブ乳癌細胞に対するGANT61、甲状腺癌細胞に対するSRC阻害薬dasatinibのCSC制御機構も検討した。― 腫瘍 ―S50川 崎 医 学 会 誌
元のページ