医学会誌42-補遺号
32/102
27基-15:ニコチン慢性処置後に対するアルコール飲酒増加に対する分子機構研究代表者:大熊 誠太郎(薬理学) アルコール(EtOH)依存症者における喫煙率は 80 % を超え、逆に喫煙者における EtOH 使用障害のリスクは非喫煙者と比較して有意に高く、アルコール依存とニコチン依存は共存することが知られている。さらに、EtOH 依存症者におけるニコチン依存は生命予後の上でも深刻な問題であり、EtOH 依存症の治療においてニコチン依存への対応が必要と考えられる。しかしながら、EtOH および nicotine 依存との科学的関連性、特にニコチン処置後の EtOH 自発摂取量における L-type voltage-dependent Ca2+ (Cav1) channels (L-type Cav1channels)の関与については明らかになっていない。そこで本研究では、ニコチン慢性処置動物を用いて、EtOH 誘発報酬効果形成および EtOH 自発摂取量における L-type Cav1 channels の関与について行動薬理学的観点から検討を行った。ニコチン処置動物は浸透圧ポンプを用い、ニコチン(24 mg/kg/day)を 14 日間皮下投与することにより作製した。また、EtOH の自発摂取量は 1 あるいは 2 bottle free choice 法により評価した。ニコチン処置後動物における 8% EtOH の自発摂取量を測定したところ、対照群と比較して有意な EtOH の自発摂取量の増加が認められた。この EtOH の自発摂取量の増加は、nifedipine の前処置により有意に抑制された。以上のことから、ニコチン処置後における EtOH 自発摂取の増加は、脳内の L-type Cav1 channels の活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された。27基-16: アルコールの再燃におけるエピジェネティクス修飾に対する L 型カルシウムチャネルの役割研究代表者:黒川 和宏(薬理学) アルコール依存症患者では治療1年後の完全断酒率は 30 %程度であり、再発率が極めて高いことが知られている。また、アルコール依存症における再燃現象に、腹側被蓋野から側坐核へ投射する中脳辺縁ドパミン神経系が関与することが報告されている。近年アルコールの慢性曝露による難治性の障害に、遺伝子エピジェネティクス修飾による遺伝子の後天的発現制御が関与していることが知られている。そこで本研究では、アルコールの再燃における脳内のエピジェネティクス修飾に対するL 型カルシウムチャネル(HVCC)の役割の役割について検討した。アルコール身体依存獲得後休薬後における精神依存形成の変化について、条件づけ場所嗜好性試験を用いた報酬効果による評価を試みた。アルコール身体依存獲得したマウスを、3日間休薬の後、アルコールあるいは生理食塩水による条件づけを 2 session 行ったところ、アルコール身体依存獲得後休薬したマウスでは、対照群に比べてアルコール誘発報酬効果の有意な増強が観察された。この報酬効果の増強は、L 型HVCCの阻害薬であるnifedipine に処置により有意に抑制された。さらに、報酬効果が認められたマウスの側坐核においてヒストンH3のアセチル化の有意な増加が認められ、nifedipine に処置により抑制された。以上の研究結果から、アルコール再燃には側坐核のL 型HVCCを介したヒストンH3アセチル化の増加に伴った神経可塑的変化関連因子の発現が亢進している可能性が考えられる。S28川 崎 医 学 会 誌
元のページ