医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-60:アポトーシスの分子機構の解析研究代表者:刀祢 重信(生化学) アポトーシスの分子機構を、実行過程と最初期の2局面で解析してきた。実行過程の中で、cell-free アポトーシス法(単離核を用いたアポトーシス誘導法)と微速度映画を用いて、核凝縮がリング形成からネックレスを経て最終の核崩壊に至る3ステップを忠実にたどることを発見し、そのうち数分で生じるリング構造がどのようなメカニズムで生じるのかを集中的に調べてきた。(すでにネックレスと核崩壊は、それぞれDNase,caspase-6が誘導することを明らかにしている)。これまでアポトーシスにおいてヒストンH2Bのリン酸化が起きること、そのリン酸化は核の凝縮に関わっており、Mst-1キナーゼが担っていることが定説になってきた。今年度は、ヒト白血病細胞JurkatのMst-1遺伝子をゲノム編集技術のTALEN法で破壊し、ヒストンのリン酸化、ならびに核の凝縮がどうなるのかを解析した。ウェスタン解析によって4個のクローンで両方の遺伝子がノックアウトされていることが確認できた。しかし、驚いたことに、それらの細胞でも野生型と同様にアポトーシスによるH2Bのリン酸化がおき、また核凝縮にも影響は見られなかった。さらにJurkat細胞の野生株とMst-1のKO株をアポトーシスさせて、それぞれextractを作製し、単離核に反応させたところ、両方とも同様に核凝縮を起こした。少なくともこのことから、Mst-1キナーゼはアポトーシスによるH2Bのリン酸化に必須ではなく、核凝縮にも関係が無いことが分かった。26基-47:皮膚疾患におけるMCL1の発現解析研究代表者:牧野 英一(皮膚科学)【背景】MCL1は抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーに属し、BCL-2以外のメンバーとしてBCL-xL、BCL2-A1、BCL-wが挙げられる。Bcl-2、Bcl2-a1a、Bcl-wノックアウトマウスでは皮膚の異常は報告されておらず、抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーの中ではMCL1とBCL-xLの2つが表皮細胞の生存に強く関わっているものと想定されている。【目的】最近、Bcl-xLコンディショナルノックアウト(cKO)マウスの皮膚において紫外線や薬剤による発癌を抑制する効果があると報告されたが、表皮細胞におけるMCL1の機能の詳細は未だ不明のままである。表皮細胞の生存・分化におけるMCL1の機能を解析することが本研究の目的である。【方法】組織特異的プロモーターとして表皮細胞に特異的に発現しているKeratin-5とKeratin-14とを用いてCre蛋白を誘導し、マウス皮膚の基底細胞におけるMcl-1を特異的に欠失させ、その変化を観察し、表皮細胞の生存・分化に果たすMCL1の直接的な働きを明らかにする。【結果・考察】免疫染色法にてMCL1は有棘層から顆粒層といった分化した層に強く発現していることを確認した。本研究において作製したMcl-1 cKOマウスの皮膚では著明な角化亢進と表皮肥厚が観察された。皮膚以外にKeratin-5の発現している食道や胃でも角層の著明な肥厚が認められ、重層扁平上皮における分化にMCL1が深く関与していることが想定された。本研究にて抗アポトーシス作用をもつタンパク質MCL1と表皮細胞の増殖・分化との関連について重要な所見が得られる可能性が期待される。S72川 崎 医 学 会 誌

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