医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-68:金属ナノシートの免疫毒性研究代表者:西村 泰光(衛生学) 近年、ナノスケール新素材の利用が高まりつつ有るが、一方でナノ物質の毒性、所謂“ナノ毒性”が指摘されている。チタン酸化物は工業的に広く用いられているが、厚さが1nm以下のシート状物質、チタン酸ナノシート(TNS)の合成が盛んに研究されている。しかし、TNSの健康影響に関する報告はこれまでなく、産業保健・環境保健の観点から安全性が危惧される状況にある。我々はこれまでの研究により、TNS曝露下培養時に末梢血単核球(PBMC)のアポトーシスが誘導されること、巨大な空胞様構造を持つ細胞が観察されることを見いだした。そこで、CD14+単球およびCD4+Tヘルパー(Th)細胞を磁気分離し10 μg/mlのTNS存在下で培養しTNS曝露影響を解析した。単球では1日後から空胞が観察され、経過と共に多数となり巨大化し、7日後にはアネキシン陽性(Anx+)細胞が増加した。Th細胞では空胞は観察されなかったが、7日後にはAnx+PI+細胞が増加した。TNS曝露時のAnx+細胞増加は汎カスパーゼ阻害剤,Q-VD-OPh添加で抑制された。TNS曝露時の空胞様構造はPI,DAPIで染色されず、細胞内F-actinは不鮮明で染色性は空胞を反映していた。透過型電子顕微鏡像の解析から、TNS曝露後の単球内に膜で囲まれた巨大な空胞が形成されていることが確認された。空胞内部にはTNS様の微小構造物が多数存在し、主として空胞内壁に近接していた。以上の結果は、TNSがカスパーゼ依存性のアポトーシスを誘導することを示し、細胞内へのTNS取り込みと空胞形成および毒性影響との関わりを示唆する。26基-54:ランタノイドを担持したナノシートの合成とその評価研究代表者:吉岡 大輔(自然科学) 液相合成したチタン酸ナノシート(TNS)分散液に酸化ランタノイドを懸濁し,紫外線を照射することでTNS表面にランタノイドを担持したLn/TNSを作成した(光電着法)。作成したLn/TNSに対して透過型電子顕微鏡(TEM),X線回折(XRD)を用いて,担持反応がTNSの形状および層状構造に及ぼす影響について検討を行った。また,蛍光分光光度計を用いて発光特性の評価を行った。 TNSおよびいくつかのLn/TNSをTEMで観察したところ,いずれもひし形のシート状構造であり,TNSの特徴的な構造はLn/TNSにも引き継がれていた。また,乾燥粉末のXRDパターンからは,Ln/TNSはTNSよりも層間距離は広がるものの,ともに層状構造であることが分かった。 Sm/-,Eu/-,Tb/-,Dy/TNSは300 nm前後の紫外線照射による蛍光発光を示した。特に,Eu/TNSは赤色の強い蛍光を発した。これら4つのLn/TNSの蛍光スペクトルを解析し,次の①から③の機構によりLn/TNSが発光すると推定した。①紫外線照射によるTNSの励起,②TNSからLn3+励起準位(4f軌道)への電子またはエネルギーの移動,③Ln3+の励起準位から基底準位へのf-f遷移。②を支配するTNSとLn3+の励起準位の重なりが特に重要であると考えられる。 これらの結果は,本研究で用いた光電着法で,TNSの性質を失うことなく新たに蛍光特性を付与できたことを示している。また,光電着による担持の反応機構について,従来の酸化チタンへの光電着法による金属担持およびLn3+の酸化還元電位に基づいて検討を行ったので合わせて報告する。S70川 崎 医 学 会 誌

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