医学会誌 第41巻 補遺号
68/90
26基-19:S1PR1陽性HTLV-1感染細胞株のxenograftモデルにおけるFTY720の抗腫瘍効果の検討研究代表者:定平 吉都(病理学1) FTY720のリンパ造血器疾患への治療応用が示唆されているが、sphingosine-1-phosphate receptor 1 (S1PR1)を多量に発現している腫瘍への効果については検討されていない。今回我々は、S1PR1を高発現し、かつSTAT3の恒常的発現がみられるヒト成人T細胞白血病細胞株をマウスに移植し、FTY720投与の効果を調べた。5つの成人T細胞白血病細胞株のうち、MT2とHUT102がS1PR1を高発現しており、同時にSTAT3とNFkBの恒常的活性化も認められた。MT2およびHUT102(107細胞)をSCIDマウスの腹腔内に移植したところ、HUT102では腹腔内で腫瘤形成が認められた。腫瘤を構成する細胞は大型リンパ球であり、腫瘤の中心は壊死に陥る傾向がみられた。S1PR1の免疫染色では、腫瘤の辺縁部の腫瘍細胞よりも中心部の腫瘍細胞に高発現がみられた。移植後4日目からFTY720投与を開始し、19日まで10mg/kgを連日腹腔内投与し、20日目に屠殺した。HUT102おけるFTY720投与群とコントロール群の腫瘍重量は、移植後20日において、1.43±0.42g vs 1.45±0.34g (mean±SD、p=0.48)であり、両群に有意差を認めなかった。また、p-STAT3の発現についても両者に有意差を認めなかった(FTY720投与群とコントロール群:46.0±10.0% vs 52.2±5.4%、P=0.16)。両者にS1PR1の発現に差は認められなかった。更に腫瘤の壊死の領域についても計測したが、両者に有意差を認めなかった(FTY720投与群とコントロール群:23.3±17.1% vs 19.4±8.0%、P=0.35)。 以上、S1PR1を高発現しSTAT3の恒常的活性化をしめす成人T細胞白血病細胞株HUT102では、FTY720の高投与量において、有意な抗腫瘍効果は得られなかった。26基-30:先天性赤血球膜異常症の病因解明と簡易診断法の確立に向けて研究代表者:杉原 尚(血液内科学)【緒言】遺伝性球状赤血球症(HS)は赤血球膜蛋白異常(spectrin、ankyrin、band 3、P4.2)に起因する疾患であるが、従来の赤血球膜蛋白検査(SDS-PAGE)では必ずしも病因遺伝子変異に該当する膜蛋白異常を表現しておらず、約30%の症例で膜蛋白異常を同定できない。我々はHSの新たな検査法として、赤血球膜EMA結合能をフローサイトメトリーで評価する方法に注目し、同検査の有用性を検討した。【対象】HS92例(spectrin単独欠損11例、ankyrin関連欠損8例、band 3関連欠損19例、P4.2部分欠損23例、膜蛋白欠損未検出群25例)、P4.2完全欠損症6例、HE18例(P4.1欠損5例、spectrin欠損7例、膜蛋白欠損未検出群6例)【結果】MCF (% of control)値は、spectrin欠損81.9±7.1%、ankyrin欠損74.6±2.9%、band 3欠損73.1±5.4%、P4.2部分欠損77.6±8.5%、膜蛋白欠損未検出群74.0±7.3%、P4.2完全欠損85.7±2.6%といずれも低値であった。これに対して、HEでは、spectrin欠損82.4±6.7%、P4.1欠損95.5±2.3%、膜蛋白欠損未検出群95.6±3.5%であり、spectrin欠損で低値を示した。【考察】EMA結合能はHS全病型において低下しており、HSにおける診断法として有用である。HEにおけるEMA結合能の低下は、spectrin欠損型に特異的と推察されるが、既報はなく、症例数の少ない遺伝性有口赤血球症(HSt)を含めて更なる症例の蓄積による検討を要する。S64川 崎 医 学 会 誌
元のページ