医学会誌 第41巻 補遺号
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26挑-4:インフルエンザウイルス感染行動可視化解析技術の開発研究代表者:堺 立也(微生物学) インフルエンザウイルスは,宿主細胞のエンドサイトーシスを利用し細胞内に侵入し感染する.エンドサイトーシスのおきる領域は細胞表面の一部に限られるため,細胞表面に吸着したウイルスは,エンドサイトーシス領域まで移動しなければならない.我々は,ウイルスがヘマグルチニンと受容体(シアロ糖蛋白質あるいはシアロ糖脂質)の結合を入れ替えることで細胞表面を移動(運動)しエンドサイトーシス領域まで到達することをあきらかにした.さらに,ウイルスの運動パターンがヒトを宿主とするウイルスとミズドリを宿主とするウイルスで異なることを示唆する結果を得ている.これらの結果から,我々はウイルスによる運動パターンの違いをあきらかにすることで,ウイルス感染の宿主特異性やヒトへの感染性を説明できると考えている.そこで本研究では,ウイルスの運動パターンを正確かつ迅速に測定する技術の開発を行い,次の(1)(2)の成果を得た.(1)人工細胞表面の作製.任意の組成と密度でシアロ糖鎖を保持するガラス表面を作製した.これにより様々な種類のウイルスの運動を同一条件での比較が可能になった.(2)非標識ウイルスの観察法の開発.表面反射干渉顕微鏡を改良することでウイルス粒子の直接観察が可能になり,少量のウイルスで迅速かつ正確な観察が可能になった.これらの技術開発により,我々は自然界に存在する様々なウイルスの運動の解析・分類が現実的になったと考えている.26基-36:A型インフルエンザウイルス感染の交差防御を担う宿主因子は何か?研究代表者:後川 潤(微生物学) 日本におけるインフルエンザの予防対策の中心はワクチン接種であるが、国内で使用されている不活化ワクチンでは細胞性免疫が殆ど誘導されず、またワクチン株と流行株との抗原性が異なると効果的な免疫応答は誘導されない。近年の報告では、宿主に抗原性の異なる(中和抗体の効果がない)ウイルスに対する防御効果(交差防御能)を付与する因子が細胞性免疫を担う細胞群に存在し、細胞傷害性T細胞(CTL)がその主たる役割を担っていると考えられている。そこで本研究では、交差防御を担う免疫細胞を特定し、その機能や作用機構を明らかにするために以下の実験を行った。まず、4週齢のC57BL/10マウスにA型ヒトインフルエンザウイルスを感染させ、発症から回復したマウスの脾臓とリンパ節を摘出して細胞を回収した。次に脾臓およびリンパ節から回収した全細胞もしくはCD8陽性T細胞を除去した細胞をマウス腹腔内に投与し、その2日後に抗原性の異なるウイルスをチャレンジ感染させて体重減少などを指標として発症抑制効果を観察した。その結果、CD8陽性T細胞が交差防御能に大きく寄与していることが示唆されたが、脾臓由来のCD8陽性T細胞とリンパ節由来のそれとで機能が異なり、脾臓由来のものは発症抑制的に働くのに対し、リンパ節由来のものは発症促進的に働いていることが示唆された。今後はこれらのT細胞の詳細なサブセット解析を行って、交差防御を担う責任細胞を同定したいと考えている。S62川 崎 医 学 会 誌

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