医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-81:心臓の力学的環境変化に対する心機能評価と心室形態制御メカニズムの解明研究代表者:毛利 聡(生理学1) 心臓は血圧や血液循環量など、力学的な環境変化に対して心筋量および心室形態を変化させて応答するが、そのメカニズムについては不明である。本研究では左心室の力学的負荷応答を明らかにする方法としてマウスに大動脈縮窄術を行い、左心室の後負荷増加に対する応答をCaハンドリング関連分子中心に検討した。負荷に対する代償期である術後2週間では左心室拡張期末容積は術前と変わらなかったが心筋重量が増加し心肥大が認められた。細胞外にCaを排出するNa-Ca交換体(NCX)のタンパク発現量には変化がなかったもののCa排出活性は上昇していた。NCX活性の上昇傾向は術後6週まで継続していたが、左心室拡張期末容積が増加して代償不全期と考えられる8週ではNCX活性の半減を認めた。更に心機能の低下する術後16週ではNCXおよび電位依存性Caチャネルの発現も低下し、NCX活性は更に低下して術前の30%となった。また、術後16週では収縮に伴う心筋細胞内のCa上昇において、空間的不均一性が観察された。これらの結果より、左心室の後負荷増加に対してNCX活性の上昇が心室拡張を防いで形態の維持の役割を果たしている可能性が示された。今後は、薬剤誘導によって心筋細胞特異的にNCXを発現させてCa排出活性を維持することで心室形態を保ち、力学的負荷に対する代償不全を防ぐことができるか検討する。26基-70:マウス心筋細胞における力学環境感知システムの重要性研究代表者:氏原 嘉洋(生理学1) 近年、細胞に加わる重力や血流・血圧、伸展などの力学刺激は、有害なものではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な情報であることが明らかになってきた。しかし、細胞の力学環境感知システムの分子実体については未だほとんどわかっていない。我々はこれまでに、力学刺激依存的に細胞内にCa2+イオンを流入させるメカノセンサー分子に注目して研究を進めて来た。最近になって、この分子の心臓における役割を明らかにするために、任意のタイミングでかつ心筋細胞特異的にメカノセンサーをノックアウト可能なマウスを開発した。 本研究では、成熟した心臓におけるメカノセンサーの生理的な役割を明らかにするために、成体マウスの心筋細胞からメカノセンサーをノックアウトした。メカノセンサーをノックアウトしてからわずか4日で、心臓の血液ポンプ機能が著しく低下し、4割のマウスが死亡した。心臓のマクロな形態に関しては、4日後の心臓では顕著な異常は認められなかったものの、9日後の心臓では心室の著しい拡張がみられた。以上の結果より、メカノセンサーは、成体マウスの心臓の血液ポンプ機能の維持に必須の分子であることが明らかになった。― 循環(心臓・脈管・腎臓) ―S30川 崎 医 学 会 誌

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