医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-59:アルコールがCl-調節機構に与える影響研究代表者:大熊 誠太郎(薬理学) アルコールは脳内報酬回路における神経変性を伴いその依存性を呈することが報告されている。近年、アルコールによりグルタミン神経とGABA神経の刺激バランスが崩壊し、これによりアルコール依存症が発症すること、神経細胞において細胞内Cl-濃度によりGABAA受容体の役割が抑制性あるいは興奮性に働くことが報告されている。また、細胞内Cl-濃度がGABAA受容体、Cl-トランスポーター(KCC2およびNKCC1)により制御されていることからアルコールによりこれらの発現が変化することによってアルコール依存症が発症する可能性が考えられる。そこで本研究では、アルコール依存症モデルにおけるGABAA受容体、KCC2、NKCC1の発現変化およびアルコール依存症との関連性を明らかとすることを目的とした。大脳皮質神経細胞にアルコールを曝露し、GABAA受容体αサブユニットの発現変化をリアルタイムPCR法により解析した。また、アルコールによるNFκBファミリーの核内移行をウェスタンブロット法および免疫染色法により解析した。神経細胞においてアルコール曝露により、GABAA受容体α6 subunitの発現は有意に増加した。また、アルコール曝露によりNFκBファミリーであるcRelの核内発現の増加が認められ、この発現増加はIκB kinase阻害薬により抑制された。このことから、アルコールはIκB kinaseの活性化を介したcRelの核内移行を促進することによりGABAA受容体α6 subunitの発現を増加させることが考えられる。また、本研究結果より利尿薬がアルコール依存症治療薬として応用できる可能性が示唆される。26基-3:アルコール依存形成および再燃における脳内エピジェネティックの役割研究代表者:黒川 和宏(薬理学) アルコール依存症患者では治療 1 年後の完全断酒率は 30 %程度であり、再発率が極めて高いことが知られている。また、アルコール依存症における再燃現象に、腹側被蓋野から側坐核へ投射する中脳辺縁ドパミン神経系が関与することが報告されている。近年アルコールの慢性曝露による難治性の障害に、遺伝子エピジェネティクス修飾による遺伝子の後天的発現制御が関与していることが知られている。そこで本研究では、アルコール依存形成および再燃における脳内のエピジェネティクスの役割について検討した。アルコール身体依存獲得後休薬後における精神依存形成の変化について、条件づけ場所嗜好性試験を用いた報酬効果による評価を試みた。アルコール身体依存獲得したマウスを、3日間休薬の後、強直性間代性けいれんの発現が消失した 4 日目より、アルコールあるいは生理食塩水による条件づけを 2 session 行ったところ、アルコール身体依存獲得後休薬したマウスでは、対照群に比べてアルコール誘発報酬効果の有意な増強が観察され、アルコールに対する感受性の亢進が認められた。さらに、報酬効果が認められたマウスの側坐核においてヒストンH3のアセチル化の有意な増加が観察された。以上の研究結果から、アルコール再燃には側坐核におけるヒストンH3アセチル化の増加に伴った神経可塑的変化関連因子の発現が亢進している可能性が考えられる。S26川 崎 医 学 会 誌

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