医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-1:トランスサイレチン型アミロイドーシスの神経変性機序の研究研究代表者:村上 龍文(神経内科学) 我々はトランスサイレチン(TTR)型アミロイドーシスの神経変性機序を明らかにするため、疾患モデルマウスからヒト異型TTR遺伝子を発現する不死化シュワン培養細胞TgS1を確立し、その培養上清が後根神経節(DRG)培養細胞の神経突起の成長を抑制することを明らかにしてきた。 この機序を解明するため正常マウスシュワン細胞株IMS32に正常TTRと異型TTR(Met30TTR)発現プラスミドをトランスフェクションしstable transformantsを作成し、それらを無血清培地で培養し、24時間後の培養上清をDRG培養細胞に加え神経突起数や伸展度合いを観察した。異型TTRが発現している培養上清では神経突起成長抑制効果が観察され、異型TTRそのものが成長を抑制していると考えられた。 次に12か月齢以上の老齢FAPマウスと老齢正常C57BL/6JマウスのDRGを取り出し、組織切片を作成し、抗TTR抗体でTTR凝集の有無を調べた。18か月齢と24か月齢FAPマウスDRGで、衛星細胞内やシュワン細胞内にTTR凝集が観察された。またTgS1をプロテオソーム阻害剤で処理するとアグリソームの部位にTTR凝集が観察された。これらの結果から老化によるシュワン細胞の蛋白品質管理システムの低下が細胞内TTR凝集に関連していることが示唆された。26基-58:社会的ストレス誘発性アルコール依存症におけるCl-調節機構の役割研究代表者:水野 晃治(薬理学) エタノールは、細胞膜に作用することでイオンチャネルの阻害等を行うことが報告されているが、そのメカニズムは未だ明らかとされていない。また、アルコール依存症の治療薬は少なく、根治が難しいのも現状である。我々は、これまでにカルシウムチャネルに対するアルコールの作用を中心にいくつかの知見を得てきたが、未だ治療法および治療薬の開発には至っていない。また近年、エタノールはGABAA受容体に対する機能変化をもたらすこと、特にextrasynaptic GABAA受容体の機能変化によるtonic inhibitionの変化が痙攣、認知、記憶、睡眠、不安、うつ病、統合失調症、アルコール依存症に関わることが報告されている。そこで我々は、新たな知見を得るべく、アルコール依存症動物モデルにおけるCl-調節因子の発現変化ならびにアルコール消費量に対するNKCC1阻害剤の影響について検討を行った。アルコール依存症動物モデルにおいてGABAA受容体α1サブユニットの発現は有意に減少し、GABAA受容体α6サブユニットおよびCl-トランスポーターであるNKCC1の発現は有意に増加した。また、アルコール依存症動物モデルが示すアルコール消費量の増加に対する脳室内投与によるNKCC1阻害剤の影響を検討したところアルコール慢性曝露により増加したアルコール消費量は有意に減少した。このことからアルコール依存症の発症およびその病態維持には脳神経細胞内における恒常的なCl-濃度の増加が起因すると考えられ、また、NKCC1阻害剤によりCl-の細胞内流入を阻害することは、アルコール依存症の新たな治療法となりうることが示唆された。S25

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