医学会誌 第40巻 補遺号
55/92
25基-95: 肺扁平上皮癌症例における術前FDG-PETのSUV(standardized uptake value)値と癌増殖因子の相関に関する研究研究代表者:清水 克彦(呼吸器外科学)背景と目的:肺扁平上皮癌において、FDG-PETのSUV値で腫瘍内のCOX-2発現や生物学的悪性度の予測ができるかどうかを検討した。 対象と方法:2007年1月からの4年間で、当院で手術を施行した術前未治療の肺扁平上皮癌47例を対象とした。年齢、性別、腫瘍分化度、pl、ly、v、リンパ節転移、CRPなどの患者背景とSUV値の関連性に関して検討を行い、さらに切除検体を用いてCOX-2、Ki-67、VEGF、EGFRの免疫染色を施行し、これらを高発現群と低発現群に分け、SUV値との関連性について検討を行った。結果:臨床病理学的因子とSUV値には関連性は認めなかった。免疫染色で各マーカーの高発現群はそれぞれCOX-2で49%、Ki-67で57%、VEGF 51%、EGFR 53%であり、COX-2とKi-67では高発現群においてSUV値が高い傾向がみられた。しかし、重回帰分析ではCOX-2、Ki-67の発現とSUV値との相関は認められなかった(R2=0.174)。また、SUV値はDFSに影響を与えなかったが、COX-2高発現群では有意に予後が不良であった(p=0.02)。まとめ:肺扁平上皮癌においてFDG-PETにおけるSUV値は臨床病理学的因子と関連性をもたず、血管新生因子や増殖因子との相関も弱い傾向にあった。また扁平上皮癌において、SUV値は予後に関連を認めなかった。25基-12:乳癌・甲状腺癌の薬物療法に関する前臨床研究研究代表者:紅林 淳一(乳腺甲状腺外科学) 乳癌の発生、進行、再発、治療抵抗性において、乳癌幹細胞(BCSC)が重要な役割を果たしている。エストロゲン感受性乳癌細胞において、BCSCはエストロゲン受容体(ER)が陰性であり、ER陽性のnon-BCSCから分泌されるパラクリン因子によりBCSCの制御が行われていることが示唆されている。我々は、エストロゲンのBCSC制御機構において要となるパラクリン因子の同定を試みた。エストロゲン高感受性(HS)乳癌細胞株MCF-7, T-47D、低感受性(LS)乳癌細胞株KPL-1, KPL-3Cを用いた。MCF-7細胞を17β-estradiol (E2)を添加した培地で培養し、BCSC (CD44high/CD24low/EpCAM陽性)分画とnon-BCSC分画に分離し、total RNAを抽出し、マイクロアレイ(約5万プローブ)で遺伝子発現解析を行った。BCSCの制御にかかわる候補遺伝子の発現の変化を定量RT-PCRを用い検討した。細胞増殖やBCSC比率に与える影響も検討した。E2添加により、BCSCでは1,986遺伝子の発現増加、2,048遺伝子の発現低下、non-BCSCでは1,793遺伝子の発現増加、2,139遺伝子の発現低下がみられた。BCSCに比べnon-BCSCにおいて、E2による変動が大きかった422遺伝子が抽出され、その中からBCSCの制御に関わると推測されるパラクリン因子を3種類(amphiregulin, betacellulin, CXCL12)同定した。LS細胞株では、E2による細胞増殖の促進作用、BCSC比率の増加作用、これらに対する抗エストロゲン薬の阻害作用は弱い傾向を示した。LS細胞株では、E2によるamphiregulin、CXCL12の発現増加作用が著しかった。これらの検討により、E2によるBCSC制御機構やその破綻によるホルモン療法抵抗性獲得機構の解明に迫りたい。S51
元のページ