医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-39: ニコチンによる過感受性形成に伴うType I inositol 1,4,5-trisphosphate receptor (IP3R-1) 発現制御機構の解明研究代表者:水野 晃治(薬理学) ニコチンは、依存形成の原因物質とされているが、動物実験によりニコチン連続投与によるニコチンに対する過感受性の形成には、カルシウム、カルシニューリンの活性化が関わっていることが報告されている。近年我々は、Dopamine receptor活性化によるカルシウムシグナル伝達を介した神経細胞内の1型IP3受容体 (IP3R-1) 発現増加が薬物依存症発症に重要な役割を果たすことを見出している。そこで、ニコチンによるIP3R-1の発現増加制御機構について初代培養神経細胞を用いて検討を行った。ニコチン0.1~1μM濃度によりIP3R-1の発現増加が確認された。このとき、Calcium dependent calmodulin kinase IV (CaMKIV)の活性化が認められたが、CaMKIIには有意な変化は認められなかった。また、ニコチンによって誘導されるIP3R-1の発現増加は、カルシウムキレート剤であるBAPTA-AMおよび非選択的CaMKs阻害剤であるKN-93により完全に抑制された。CaMKIVは、CREBの活性化によりcFosの産生を増加させること、また、cJunをリン酸化させることにより活性化させることが報告されている。そこで、これら両タンパクの核内での発現を検討したところ、ニコチンにより両タンパク質の発現は有意に増加し、この発現増加はKN-93により有意に抑制された。近年、我々はChip assayを用いてcFosおよびcJunがitpr1のプロモーター領域に結合することでIP3R-1の発現を制御することを報告している。以上の結果および報告より、ニコチンは、カルシウムシグナル伝達が活性化することにより、遺伝子レベルでIP3R-1の発現を制御していることが示唆された。25基-7:アルコール依存症における再燃現象に対する IP3Rs-1 の発現機序の解明研究代表者:黒川 和宏(薬理学) アルコールは、中脳辺縁 dopamine 神経系に作用して精神依存を形成することが知られている。本研究では、アルコール誘発報酬効果形成過程における IP3Rs-1 の変化ならびに IP3Rs-1 の発現調節機序について検討した。アルコール蒸気を 4 日間曝露させたマウスを用いて、アルコールによる条件づけを行ったところ、有意な報酬効果が認められた。また、その報酬効果は、IP3Rs の阻害剤である 2-APB により有意に抑制された。さらに、アルコール処置により報酬効果が認められたマウス前脳辺縁部において IP3Rs-1 のタンパク質量の有意な増加が認められた。アルコール誘発報酬効果形成に対する calcineurin の拮抗薬である FK506 の効果について検討したところ、アルコール誘発報酬効果は、FK506 の処置によっても用量依存的かつ有意に抑制された。さらに、アルコール処置により前脳辺縁部での IP3Rs-1のタンパク質量の増加は、FK506 前処置により有意に抑制された。以上の研究の結果から、アルコールによる報酬効果形成には IP3Rs-1 が関与し、また、IP3Rs-1 のタンパク質量の増加機構に calcineurin を介した調節機序が一部関与している可能性が推察される。S28川 崎 医 学 会 誌

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