医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-56:生体リズムによる嗅覚神経回路の調節機構研究代表者:樋田 一徳(解剖学) 本研究の目的は、概日リズムを刻む時計遺伝子による嗅覚系神経回路の調節機構を明らかにすることである。嗅覚系一次脳中枢の嗅球の神経回路調節に重要な介在ニューロンは、生後、側脳室下帯において神経幹細胞から発生した神経前駆細胞が嗅球に遊走することに由来するが、この過程で時計遺伝子を発現することが、時計遺伝子の全脳的検索でわかっている。しかし、これらニューロン群の時計遺伝子発現の時間的・空間的タイミング、遺伝子による嗅覚系細胞の概日リズム発現の有無、そして介在ニューロンへの分化、形態的・化学的同定、神経回路内のシナプス同定についての詳細は明らかになっていない。このため本研究ではレーザー顕微鏡、多次元的形態計測・定量解析、デジタル電子顕微鏡などを用いて、嗅覚系ニューロンの新生・分化課程について統合的解析を行うものである。 解析の結果、側脳室下帯の神経幹細胞から発生した後に嗅球に遊走する神経前駆細胞は、その過程で形態の多様性を示し、ニューロン系への分化を促す転写因子を遊走途中でも発現することが分かった。また、嗅球深部に到達してから嗅球表面に向かって放射状に遊走する際に時計遺伝子を発現し、神経回路に組み込まれることが示唆された。 脳内ニューロンの分化過程と神経回路調節機構について、生体リズムという従来にない視点から最新のイメージング法により高解像度で解明するものであり、現在解析を更に進めている。25基-6:ニコチン身体依存形成後に対するアルコール誘発報酬効果形成の分子機構研究代表者:大熊 誠太郎(薬理学) ニコチンおよびアルコールは日常生活に密接に関連しており、それらの依存症は社会的に重要な精神疾患であり、その分子基盤の解明が求められている。また、アルコール依存症における喫煙率は 80% を超え、逆に喫煙者におけるアルコール使用障害のリスクは非喫煙者と比較して有意に高く、アルコール依存とニコチン依存は共存することが多い。そこで本研究では、ニコチン慢性処置動物を用いて、アルコール誘発報酬効果形成の機序について行動薬理学的観点から検討した。マウスの皮下に浸透圧ポンプを埋め込みニコチンを14日間慢性投与した。その後、3日間休薬した後に、条件づけ場所嗜好性試験法に従い、アルコールの条件づけを行ったところ、生理食塩水処置群と比較して有意な報酬効果が認められた。この報酬効果が、側坐核のドパミン遊離増加により生じているか否かについてマイクロダイヤリシス法に従い検討した。その結果、ニコチン慢性処置群にアルコールを処置したところ、生理食塩水群と同様なドパミンの遊離量であった。そこで、L 型Ca2+チャネルの拮抗薬を用いて、アルコール誘発報酬効果形成について検討したところ、アルコールによる報酬効果は、用量依存的かつ有意に抑制された。以上の結果より、ニコチン慢性処置後におけるアルコール誘発報酬効果形成に、L 型Ca2+チャネルが重要な役割を果たしていることが示唆された。S27

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