医学会誌 第40巻 補遺号
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25大-3:酸化ストレスからみた肝発癌機構の性差研究代表者:日野 啓輔、富山 恭行(肝胆膵内科学)【目的】卵巣摘出(OVX)を行ったHCVトランスジェニックマウス(TgM)を用いて,OVXならびにHCVタンパクが酸化ストレスに与える影響とメカニズムを検討した.【方法】4~6週齢の雌のHCV TgMとC57BL/6マウス(nonTgM)にOVXとSham手術を行い,OVX-TgM,Sham-TgM,OVX-nonTgM,Sham-nonTgMの4群(それぞれn=5)を設定し,6ヶ月齢での肝組織,酸化ストレス,ミトコンドリア抗酸化能について解析した.【結果】食餌量,体重,肝重量,血清レプチン値はHCVタンパク発現の有無に関係なくOVXにより有意に上昇したが,血清ALT値と肝内中性脂肪量はOVX-TgMでのみ有意に上昇した.肝内ROS(superoxide)はOVXによりTgM,nonTgMともに有意に上昇したが,OVX-TgMのROS産生量はOVX-nonTgMに比べて有意に高値であった.次にROS産生亢進に対する抗酸化能を検討したところ,nonTgMではOVXにより血清中BAP/dROMs比ならびにsuperoxide dismutase2,glutathioneperoxidase1の発現は有意に上昇したが,OVX-TgMでは上昇は認めず,代償性の抗酸化能が抑制されていることが示唆された.さらに抗酸化酵素の発現を制御するperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α(PGC-1α)はOVXによる活性化の程度はnonTgMに比べてTgMで有意に低く,PGC-1α依存性に抗酸化酵素を誘導するSirtuin(SIRT) 3はOVX-TgMでは上昇しなかった.さらにPGC-1αの転写ならびに転写後調節を行うadenosine monophosphate–activated protein kinase α(AMPKα)は,OVXによりnonTgMでは活性化されたが,TgMでは活性化されなかった.【結論】HCV TgMではOVXによる肝内ROS産生に対する抗酸化機能が低下しており,HCVタンパクによるAMPKα/PGC-1αシグナル抑制が関与していると考えられた.以上の成績はHCV感染女性が閉経後経年的に肝発癌のリスクが上昇する機序のひとつではないかと考えられた.25基-31: 前立腺癌の腫瘍描出能および悪性度の評価におけるUltra high b value拡散強調像の臨床応用に対する臨床研究研究代表者:玉田 勉(放射線医学(画像診断1))【目的】前立腺癌の腫瘍描出能と悪性度の評価における3T装置を用いたultra high b value拡散強調像の有用性を評価する。【対称と方法】対象は、前立腺生検または前立腺全摘術で前立腺癌と診断された50症例(平均年齢70歳)。MRIは3T装置で多チャンネルのphased array coilを用いて撮像された。撮像シークエンスはT2強調像、拡散強調像および造影ダイナミックで、拡散強調像はstandard b値(0 and 1000 s/mm2)とultra high b値(0 and 1000 s/mm2)の2種類を撮像し、1)定性(lesion conspicuity score (LCS))および定量評価(tumor-normal SI ratio (TNR))を用いた腫瘍描出能および2) 組織学的な腫瘍悪性度の指標であるグリーソンスコア(GS)と拡散強調像から得られるADC(みかけの拡散係数)との相関係数を比較した。【結果】1) 腫瘍部のLCSおよびTNRはいずれもultra high bがstandard bに比べて有意に高かった。2) ADCとGSの相関係数はultra high bは0.645、standard bが0.602であった。さらにADCのカットオフ値をultra high bで0.92、standard bで1.16と設定した場合の有意癌と非有意癌の識別感度は、それぞれ82%、77%であった。【まとめ】3T装置を用いたultra high b拡散強調像はstandard b拡散強調像に比して、前立腺癌の病巣描出能を改善し、かつ非侵襲的に高い感度で有意癌と非有意癌を識別できる。― がん ―S19
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