医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-62:遺伝性脱髄疾患-クラッベ病-に対する新規治療法の開発研究研究代表者:松田 純子(学長付)【目的】クラッベ病はライソゾーム酵素であるガラクトシルセラミド(GalCer)-β-ガラクトシダーゼ(GALC)の遺伝的欠損によりミエリン形成細胞にGalCer及びガラクトシルスフィンゴシン(GalSph)が蓄積し、中枢及び末梢神経系に脱髄をきたす疾患である。最近、経口糖尿病治療薬のメトホルミンとAICARにUDP-Glc、UDP-Gal及びグルコシルセラミド(GlcCer)の合成抑制作用があることが報告された。本研究ではクラッベ病に対する新規基質抑制療法剤として、メトホルミン及びAICARの有効性を検討した。【方法】GALC欠損マウスおよび同胞の野生型マウスをメトホルミン、AICARの投与群と非投与群に分け、日齢8から35までメトホルミン(250 mg/kg/day)或いはAICAR(600 mg/kg/day)を連日腹腔内注射し、体重測定、ビデオ・トラッキングシステムによる行動解析、神経組織病理学的解析により比較検討した。【結果と考察】メトホルミン、AICAR投与群では、野生型、GALC欠損マウス共に、体重増加不良を認めた。行動解析では、メトホルミン、AICAR投与GALC欠損マウスにおいて移動距離の有意な低下を認めた。神経組織病理学的解析の結果、メトホルミン投与GALC欠損マウスでは中枢神経系の脱髄病変がむしろ増悪する傾向にあったが、AICAR投与GALC欠損マウスでは、改善している個体が観察された。現時点では、メトホルミン、AICARの治療効果は明らかではなく、メトホルミン投与はむしろ悪化させる可能性があることが判った。現在、定量的な神経組織病理学的解析と脳組織中のGalCerおよびGalSphの定量解析をすすめている。25基-28: ヒト異型トランスサイレチン遺伝子を発現する不死化シュワン培養細胞での感覚神経障害の研究研究代表者:村上 龍文(神経内科学) トランスサイレチン(TTR)型アミロイドーシスの神経変性機序を明らかにするため、疾患モデルマウスからヒト異型トランスサイレチン遺伝子を発現する不死化シュワン培養細胞を確立しTgS1と命名した。 TgS1は紡錘形を呈し、S100, p75NTR, L1, P0, PMP22, GAP43, GDNFのシュワン細胞のマーカーのmRNAを発現し、免疫細胞化学でS100,p75NTRで染色され、シュワン細胞の性質を保持していた。さらにTgS1ではヒト異型TTR mRNAが検出され、Cell lysatesと培養液でヒトTTR蛋白がウエスタンブロット法で確認され、細胞内で産生、分泌されていることが確認された。培養液中のヒトTTR濃度をELISA法で測定すると、培養開始72時間後に23 ng/mlまで上昇し、96時間まで定常状態であった。 TgS1と対照として正常マウス不死化シュワン細胞IMS32を無血清培地で培養し、24時間後に上清を採取し、マウス後根神経節培養細胞に加え神経突起数や伸展度合いを観察した。IMS32由来の上清は神経突起数や伸展度合いを培養していない血清に比し有意に増加させたが、TgS1由来の上清はその程度が減弱していた。 これらのことから異型TTRを含むTgS1培養上清が後根神経節培養細胞の神経突起の成長を抑制していることが示唆された。― 病態(神経・免疫) ―S17

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