医学会誌 第40巻 補遺号
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23特-1:筋消耗性疾患とメタボリック症候群の克服に向けたマイオスタチン阻害低分子医薬の開発研究代表者:砂田 芳秀(神経内科学) マイオスタチンは体脂肪量を正に、骨格筋量を負に制御するユニークなTGF-β分子で、われわれはマイオスタチン活性亢進による筋ジストロフィーの筋萎縮機構を明らかとした(JCI161, 2006)。昨年度までにin vitro転写アッセイによってマイオスタチンを生理的に阻害する240アミノ酸からなるプロドメイン蛋白質の阻害活性中心を同定して特許申請を行った。本年度は、阻害活性中心に相当する29アミノ酸ペプチド(p29)を合成してカベオリン3欠損筋ジストロフィーマウスの前脛骨筋へ局所投与した。筋萎縮・筋張力減少は改善し筋線維断面積は増大した。一方、マイオスタチンおよびアクチビンの細胞膜受容体キナーゼに対する低分子阻害化合物(TβRI kinase)を、ジストロフィン欠損筋ジストロフィーマウス及びサルコペニアモデルマウスに経口投与した。筋ジスマウスの筋萎縮と筋張力低下は改善し壊死・再生・線維化・脂肪化など“ジストロフィー変化”も軽減した。またサルコペニアマウスでは筋萎縮が改善して寿命が延長した。高脂肪食接取db/db糖尿病マウスへのこの化合物の経口投与は体脂肪蓄積を減少させ筋量を増大させた。この化合物をシーズ候補として特許申請を準備している。超高齢化社会に向かう国民の健康寿命を決定するサルコペニアなどの筋消耗性疾患とメタボリック症候群の双方に有効な新しい医薬を、本学から発信したい。23特-2:ミトコンドリアbiogenesisと疾患制御研究代表者:日野 啓輔(肝胆膵内科学) 平成25年度までにC型肝炎ウイルス(HCV)複製細胞、HCVトランスジェニックマウス、HCV感染キメラマウスを用いて、HCVコアタンパクがE3 ubiquitin ligaseであるParkinと結合し、Parkinのミトコンドリアへの局在を阻害することでミトコンドリア選択的autophagy (mitophagy)を抑制することを明らかにしてきた。本研究はこれまでHCVがautophagyを促進させるという多くの論文と相対する結果であり、このため論文の査読者からはよりヒトでのHCV感染に近似した状態で同様の結果を再現することが求められた。そこで、Huh7細胞に感染・複製し、HCV粒子を産生しうるadaptationをもったHCV株(JFH1株)をHuh7細胞由来細胞に感染させ、同様にコアタンパクがmitophagyを抑制しうるか否かを検討したが結果は同様であった。このようなHCVによるmitophagyの抑制はミトコンドリアの品質管理を低下させて持続的な酸化ストレスを引き起こす。また、ミトコンドリアの活性酸素産生(ROS)を増強する機序として、従来報告されてきたHCVの直接的ミトコンドリア傷害の他に、HCVタンパクがAMPK/PGC-1αシグナルを抑制し、その下流に存在する抗酸化酵素の発現を抑制することを明らかにした。ミトコンドリアは細胞内の最大のROS産生器官であると同時に強力な抗酸化機構を併せ持つ。したがって、これまでのHCVによる直接的ミトコンドリア傷害だけでは、C型肝炎に認められる持続的な酸化ストレスの誘導が説明できなかったが、本研究によりHCVによるミトコンドリア品質管理の抑制、抗酸化機構の抑制が同時に引き起こされることで、酸化ストレスが持続し増幅されることを初めて明らかにした。― 特別推進【成果発表】 ―S16川 崎 医 学 会 誌

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