医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-59:発育期における酸素運搬能変化と心筋細胞機能制御研究代表者:毛利 聡(生理学1) 酸素環境は生体の機能発現にとって極めて重要な因子であり、様々な虚血性疾患において組織および血管系のリモデリングによる応答が観察されるが、終末分化細胞である心筋細胞は分裂による組織再生が出来ないため、その細胞周期制御のメカニズムは臨床的にも重要な情報となり得る。本研究では心筋細胞が生後間もなく分裂能を失うことに注目し、同時期に起こる酸素環境の変化が心筋細胞の分裂を停止させるという仮説を検証した。胎児型ヘモグロビンを持つ胎生17日の仔マウスと成体型ヘモグロビンを持つ親マウスの赤血球の酸素親和曲線を比較し、胎児期赤血球の高酸素親和度を確認した。また、出生前後での酸素環境の変化(酸素分圧上昇)が心筋細胞分裂に及ぼす影響を検討するために低酸素(3%)および通常酸素(21%)で心筋細胞を培養するシステムを構築した。胎児心筋(胎生14日、16日、18日)を大気に暴露させずに採取して3%酸素で培養し、そのままの酸素分圧下で培養を続けたものと酸素分圧を21%に切りかえた群に分けて96時間後の細胞数を比較した。いずれの胎生日数の心筋細胞も3%酸素下で培養した群では細胞分裂により増加し、20%酸素に切りかえた群では減少した。細胞分裂マーカーであるKi67は20%酸素で低下し、筋節の構造形成は促進していた。これらより、出生時の心筋細胞の分裂停止・分化促進は酸素環境変化がトリガーとなっていることが示された。25挑-7:膵島の微小血行動態を解析しうる新規イメージング技術の開発と応用研究代表者:桑原 篤憲(腎臓・高血圧内科学)【背景】アンジオテンシンII(AII)受容体拮抗薬(ARB)は糖尿病新規発症抑制効果を有する。レーザー顕微鏡下に生体内で膵島血流を可視化しうるin vivo imaging法を開発し、AIIおよびARBによる膵島微小血流/インスリン分泌変化を解析した。【方法】マウスインスリンプロモーター下に赤色蛍光蛋白遺伝子 (Ins-DsRed) を発現するマウスとFITC標識分子量50万KDaデキストラン、レーザー顕微鏡を用いて、生体マウスにおいて膵島内微小血流変化を解析した。各種濃度のAIIを経静脈的に投与し、膵島内血行動態変化を解析した。さらにARBを投与し、同部の血行動態への影響を検討した。膵島からのインスリン分泌に与えるAIIの影響を直接評価するため、膵臓を選択的に灌流し、高糖刺激によるインスリン分泌の変化を検討した。【結果】Ins-DsRedマウスを用いることで生体動物での膵島位置の同定が可能となり、膵島を可視化検出した。FITC標識デキストランを血管内に投与し、In vivoにおいて膵島内血行動態変化を可視化した。AII投与は濃度依存性にラ氏島流入細小動脈の有意な収縮を惹起した。ARBはこのAII依存性の膵島血流低下、血管収縮を有意に抑制した。インスリン分泌は高糖濃度刺激で増加するが、AIIはこのインスリン分泌を減弱させ、ARBは増加させた。【結語】AIIは膵島流入細小動脈を収縮させ血流低下を惹起する。AIIは膵島内微小血流調節に深く関与しており、高血圧患者における糖尿病新規発症機序に寄与している可能性がある。― 基礎(循環)・特別推進・センター職員発表 ―S14川 崎 医 学 会 誌

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