川崎医学会誌39-2
76/86

24ス-1:神経回路再構成の分子メカニズムの解明研究代表者:岡部 直彦(生理学2) 神経系の組織では幹細胞の増殖能力が低く、神経回路の構造が他臓器に比べ著しく複雑であるため、既存の神経が軸索を伸長し、シナプスの再形成を行う、「神経回路の再構成」が機能回復に重要な役割を担っている。また、運動野の障害後では特に、“障害された脳領域が担っていた体領域の制御を、別の脳領域が補完する”という現象がおこる。この現象は、電気生理学的な手法で脳の機能局在を地図状に描出すると、あたかも脳の機能地図が書き換えられているように見えるので、「運動野のリマッピング」と呼ばれている。この運動野のリマッピングは脳障害後の運動機能の回復と強く相関することがわかっているが、この運動野のリマッピングがどのような分子メカニズムによりおこっているかはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では梗塞後の運動野のリマッピングの分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。平成24年度の研究では運動野のリマッピングを調べるためのIntracortical microstimulation法、skilled forelimb reaching test、およびPhotothrombosis法の実験手技とシステムを確立した。また、脳梗塞4週間後におこる運動野の変化を調べる実験が、naïve群、sham群、sham+リハビリ群、梗塞群、梗塞+リハビリ群の5群で現在進行中である。24ス-5:心肥大応答におけるCa2+ハンドリングの変化研究代表者:氏原 嘉洋(生理学1) 心筋細胞でみられる収縮・弛緩、細胞分化や肥大応答等の生理機能は、形質膜や筋小胞体に発現しているCa2+輸送体の緻密なCa2+ハンドリングによって維持されている。Ca2+輸送体のうち、形質膜上のNa+/Ca2+交換体(NCX1)は、心臓の拍動ごとに流入してくるCa2+を細胞外へと汲み出す実質上唯一のCa2+排出系として働く。これまでに、不全心筋細胞ではNCX1発現量が増加していることが報告されており、この現象は細胞内Ca2+濃度の上昇に対する適応応答であると考えられている。一方、NCX1は状況に応じてCa2+流入系としても働きうること、筋小胞体Ca2+ポンプに比べてエネルギー効率の悪いCa2+排出系であることを考慮すると、NCX1発現量の増加が心不全増悪因子となることも否定できない。 本研究では、心不全発症と重篤化におけるNCX1の病態生理学的役割を検討するために、大動脈結紮手術によって心不全モデルを作製した。エコーによる経時的な心機能評価を行うことで心機能低下を確認した後、心筋細胞内のCa2+濃度動態、NCX1の発現量および活性を計測したところ、心不全モデルマウス心臓では、心機能の低下に依存して、NCX1の活性が低下しており、弛緩期におけるCa2+の排出速度が低下していることが明らかになった。このことは、細胞外へのCa2+排出機能の低下が心不全増悪因子となりうることを示している。― 研究活動スタート支援 ―S72川 崎 医 学 会 誌

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です