川崎医学会誌39-2
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24大-2:大脳皮質形成機構の解析に向けた胎生期神経上皮組織への神経前駆細胞移植研究代表者:樋田 一徳、長島 史明(解剖学) 脳(大脳皮質)の発生・形成過程は脳室面に存在する神経幹細胞が、分裂・増殖を繰り返し神経前駆細胞、さらに神経細胞へと分化することにより最終的に成体では6層構造を形成することが知られている。この過程を経る間、神経前駆細胞は胎生期脳組織において内因性および外因性の影響を受けるが、これらを区別し解析するための有効な手法として、異所的細胞移植(transplantation)が挙げられる。しかし、胎生期脳の脳室面は上皮組織のため細胞間結合が強固であり、移植細胞が容易に組織に取り込まれないことから、確立された手技は報告されていない。 我々は、脳室面の上皮組織の細胞間結合を一時的に解離させることで、移植細胞の神経上皮組織内への取り込み効率を向上させる手法を開発した。この手法を用いて移植細胞の形態学的観察、また皮質内でのneuroral migrationの経時的観察を行った。さらにマウスの胚性幹(ES)細胞を大脳皮質神経系細胞へと分化誘導し、当手法を用いて細胞移植を行ったところ、上皮組織内でapico-basal軸に沿った突起形成を示した。また、分化誘導早期及び後期の細胞において突起形成の様式に違いが認められた。 以上、本研究では、新規細胞移植法を用いて、多能性幹細胞から誘導した神経前駆細胞の組織内形態解析を行う実験系を確立した。24大-4: Erythropoiesis-stimulating agent (ESA)の内皮細胞と内皮機能に対する直接作用とその分子機序の解明研究代表者:柏原 直樹、庵谷 千恵子(腎臓・高血圧内科学)[目的]複数の臨床研究において高用量エリスロポエチン (EPO) 使用による心血管イベントリスク増大の可能性が示唆されたが、その危惧は未だに払拭しえていない。骨髄造血細胞と非造血細胞ではEPO結合受容体構成、シグナル伝達経路が異なることが示されている。EPOの血管内皮細胞、内皮機能への直接作用を検証した。[方法]I.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用い、EPO 1.0 U/mL(静注後の血中濃度に相当)で刺激し、ストレス応答シグナル経路を解析した。siRNAにより受容体発現をノックダウンし関与する受容体種を同定した。II.正常SDラットにEPO、darbepoetin(DEPO)を4週間投与し、大動脈の内皮依存性血管弛緩反応、血管壁NADPH oxidase活性を解析した。[結果]I.EPO刺激によりNADPH oxidase活性化と活性酸素種産生が亢進した。またMAPキナーゼ経路が活性化され、EPO受容体、beta common受容体のノックダウンによりこの活性化が抑制された。II.EPO、DEPO投与によって内皮依存性血管弛緩反応が低下した。また血管壁NADPH oxidase活性は有意に増加した。[結論]内皮細胞では造血細胞とは異なり、EPOシグナル伝達においてbeta common受容体が関与し、EPOはMAPキナーゼ系経路、NADPH oxidaseを活性化し、酸化ストレスを増大させる。EPO使用時には心血管リスクを勘案した用量設定が重要である。 ― 大学院研究 ―S65
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