川崎医学会誌39-2
56/86

24基-28:骨髄異形成症候群におけるDNAメチル化阻害剤の作用機序の解明-細胞株を用いた検討研究代表者:辻岡 貴之(検査診断学(病態解析))目的:DNAメチル化阻害剤は骨髄異形成症候群(MDS)の治療薬として、 近年注目されているが、 作用機序に不明な点が多いためin vitroの系を用いて検討した。材料と方法:MDS細胞株MDS-L、MDS92と白血病細胞株HL-60を37℃、CO2 5%の条件下で培養した。DNAメチル化阻害剤(decitabine;DAC、azacitidine:AZA)を1nM-10 microMで連日処理した。結果:3つの細胞株に対して増殖抑制がみられ(IC50はMDS-L:20nM、MDS92:430nM、HL-60:200nM)、アポトーシスによる細胞死が確認された。細胞周期の解析では、MDS-LをDACで処理したとき、濃度依存性にG2/M期の細胞が増加した。一方形態上、分裂期細胞の増加を認めなかった。ヒストンH2AXのリン酸化がDACによって増強された。DAC20nMで最もメチル化が抑制された。DNAマイクロアレイを用いた遺伝子解析では造血系、細胞死に関係する遺伝子群が上位にランクされた。考察:DACはG2期あるいは増殖抑制に関与する遺伝子に作用していることが示唆された。今後、DACにより発現が上昇し、かつ脱メチル化される遺伝子に注目しMDSの病態との関連性について検討していきたい。24基-51:リンパ造血器腫瘍の診断・治療へのsphingosine-1-phosphate receptorの応用研究代表者:定平 吉都(病理学1)【背景】STAT3がS1PR1の転写因子であることが示され、腫瘍におけるS1PR1の発現亢進によるS1P/S1PR1シグナルの増強がSTAT3の恒常的活性化を引き起こすことが報告された(Nat Med 16:1421-28、2010)。近年、低酸素環境における腫瘍の増殖と転移を抑制する薬剤の開発に注目が集まっているが、今回、FTY720のATLLへの治療応用の可能性を探る目的で、STAT3の恒常的活性化がみられるHTLV-1感染T細胞株(MT2)に対する低酸素環境(1%O2)の影響と、それに対するFTY720の効果を調べた。【結果】①HTLV-1感染T細胞株において、S1PR1発現とSTAT3・STAT5のチロシンリン酸化には相関性がみられたが、FOXP3の発現との関連性は見られなかった。②MT2細胞では、高濃度(μMオーダー)のFTY720でcaspase-3を介したアポトーシスが誘導され、同時にSTAT3のチロシンリン酸化の抑制がみられた。③高濃度のFTY720でFOXP3 mRNAの発現は20%まで減少し、免疫染色でもFOXP3の核陽性所見は減弱した。④MT2を低酸素環境で培養すると、HIF-1αタンパクはやや増量し、S1PR1・STAT3・FOXP3の発現亢進がみられたが、高濃度のFTY720でSTAT3・STAT5のチロシンリン酸化の抑制がみられた。⑤FTY720では20%O2および1%O2いずれもSTAT3の標的遺伝子であるS1PR1、 CCND1の発現が抑制された。【まとめ】骨髄では、腫瘍幹細胞が造血幹細胞と同様に低酸素環境に存在する可能性が想定されている。FTY720投与は低酸素環境でのATL細胞の増殖・転移やT-reg細胞としての機能を抑制することで抗腫瘍効果を発揮する可能性がある。S52川 崎 医 学 会 誌

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です