川崎医学会誌39-2
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24基-33:プロセシング酵素PC6による形態形成の制御研究代表者:西松 伸一郎(分子生物学1(発生学))【目的】PC6は、Furinファミリーに属するセリンプロテアーゼで、TGF-βなどのサイトカイン前駆体を切断し成熟型に変換する。PC6によるこの反応が、胚の細胞の増殖と分化を調節し、頭尾軸と背腹軸にそった形態形成を制御している可能性を発見し、詳細な解析を行った。【方法】 両生類初期胚由来の多能性幹細胞を含む組織片にBMPとPC6を発現させて培養し、細胞分化や形態形成に関わるマーカーの発現をin situ法により解析した。【結果・考察】未分化な幹細胞にBMP-3bを発現させると、黒色のセメント腺組織が帯状に形成されるのに対し、PC6発現細胞と組み合わせるとセメント腺組織が円形に形成された。外部形態のわずかな違いは、細胞分化の機序の違いによることを明らかとした。BMP-3b発現細胞は周囲の細胞をセメント腺細胞に誘導していたのに対し、PC6発現細胞と接触するとBMP-3b発現細胞はセメント腺細胞に自律分化していた。マーカーの発現を解析したところ、BMP-3b発現細胞単独ではOtx2を発現するが、PC6発現細胞との接触することによりNkx2.5を発現した。Otx2→Nkx2への発現の変化は、体軸にそった胚の発現パターンと一致していた。以上の結果により、BMP-3bとPC6は、1950年代に提出された「形態形成における二重勾配仮説」における仮想分子に相当することを証明した。24基-23:直接リプログラミング機構の解明による画期的骨格筋再生療法の開発研究代表者:大澤 裕(神経内科学) 胎児皮膚線維芽細胞(MEF)からの多能性リプログラミングによってiPS細胞が樹立され、細胞再生治療は新時代を迎えたが、“多能性”に起因する癌化や誤分化といった克服すべき課題は解決できていない。一方、膵線房細胞を特異的転写因子導入によりβ細胞へ分化させるといった、一旦分化した体細胞を別の体細胞に直接リプログラミングする戦略も再生療法として脚光を浴びているが、その分子機構についての詳細は解明されていない。野生型マウス及び筋分化のマスター転写因子であるXを欠損したマウス胎児線維芽細胞を採取し、マスター転写因子“X”、“Y”、及び“Z”を遺伝子導入して筋細胞への直接リプログラミングの可否とその分子機構を探った。野生型ばかりでなくX欠損マウスの胎児線維芽細胞も、遺伝子導入にともなって、それぞれ単核の線維芽細胞から多核筋管細胞・筋線維様となりに収縮を始めた。この野生型線維芽細胞の直接リプログラミングでは、X、Y、Zが、経過とともに発現した。またX欠損線維芽細胞の直接リプログラミングでは、Y、Zが経過とともに発現した。従って線維芽細胞から筋細胞へのリプログラミングでは筋分化のマスター転写因子とされるX、Y、Zの働きには階層性があり、Y、ZがXより上流でこの機構を制御している可能性が示された。iPSの課題を回避できる直接リプログラミング機構の解明による安全な骨格筋再生療法の糸口を探る。S25

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