川崎医学会誌39-2
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23特-2:ミトコンドリアbiogenesisと疾患制御研究代表者:日野 啓輔(肝胆膵内科学) ミトコンドリアは生体内最大の活性酸素種(ROS)産生器官である一方、ROSを消去する抗酸化機構が備わっている。ミトコンドリアの品質管理が破綻するとROSが細胞内に溶出する危険性が増すため、そのような障害ミトコンドリアを選択的autophagyによって丸ごと消去する仕組み(mitophagy)が明らかにされつつある。しかし、酸化ストレスを基盤とする発癌過程においてmitophagyがどのように制御されているかは明らかにされていない。そこで肝発癌の主要な原因であり、ミトコンドリア傷害を介して酸化ストレスを引き起こすC型肝炎ウイルス(HCV)がmitophagyに及ぼす影響について、HCV感染細胞、HCV複製細胞、HCVタンパク発現細胞ならびにHCVトランスジェニックマウスとヒト肝細胞移植キメラマウスを用いて検討した。HCVコアタンパクはE3 ubiquitin ligaseであるParkinと結合してParkinのミトコンドリアへのtranslocationを阻害することで、以下のmitophagyシグナルを抑制した。さらに興味深いことにParkinの発現をsiRNAでKOするとHCV増殖が抑制されたことから、コアタンパクとParkinの結合はHCV増殖に何らかの役割を果たしていると考えられた。本研究によりC型肝炎からの発癌過程におけるmitophagyの抑制機構が明らかにされた。23特-1:筋消耗性疾患とメタボリック症候群の克服に向けたマイオスタチン阻害低分子医薬の開発研究代表者:砂田 芳秀(神経内科学) マイオスタチンは体脂肪量を正に、骨格筋量を負に制御するユニークなTGF-β分子である。我々はこれまでにマイオスタチン活性亢進による筋ジストロフィーマウスの骨格筋萎縮機構を世界に先駆け発表した(JCI161、2006)。本年度は、独自開発したマイオスタチン受容体の低分子阻害化合物(TβRI kinase)を、マイオスタチン活性亢進マウス及び糖尿病マウスに経口投与して検討した。活性促進マウスの精巣周囲脂肪・皮下脂肪量増加・耐糖能障害は投与によって改善し、傍脊柱筋量減少・四肢筋力低下も軽減した。糖尿病モデルマウスの体脂肪量も減少し、この化合物をシーズ候補として特許取得を準備している。また、マイオスタチン前駆体蛋白質のN末端の活性阻害領域についてin vitroアッセイによって同定し、これに相当するに低分子オリゴペプチド(Rp29)を作成した。筋萎縮マウスの前脛骨筋への局所投与により筋萎縮・筋張力減少が改善したため、特許申請を行った。本学から、国民の健康寿命を決定するメタボリック症候群と老年性筋萎縮(サルコペニア)の双方に有効な新規低分子医薬の発信を目指す。S15

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