医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-16: 3倍体クローン条虫株(Kawasaki triploid strain)を用いたマンソン裂頭条虫由来代謝制御因子の統合的機能解析研究代表者:沖野 哲也(微生物学) ヒトにマンソン孤虫症を引き起こすマンソン裂頭条虫(Spirometra erinaceieuropaei)の第1中間宿主(ケンミジンコ)の長期飼育法を確立し、実験的第2中間宿主(マウス)、終宿主(イヌ)を用いて、生活環を実験室内で完成させ、岡山県産の3倍体成虫を起源とする遺伝的に均一な3倍体クローン条虫株(Kawasaki triploid strain Kt株)の樹立法を確立した(Okino et al.2017)。マンソン裂頭条虫の幼虫は、成長ホルモン様因子・免疫抑制因子などの生理活性物質を分泌して、実験的宿主の代謝系・免疫系に影響をおよぼすことが知られており、Kt株は、マンソン裂頭条虫の感染とマンソン孤虫症の研究に有益である。我々は、宿主(マウス)に及ぼす効果(体重増加)が異なる複数のKt株を用いて、条虫由来の生理活性物質、特に新規の代謝制御因子を同定し、その機能的意義を明らかにすることを目指しており、体重増加効果の高い株と低い株のスクリーニングを検討している。第1中間宿主(ケンミジンコ)の飼育法についても、さらなる効率化を目指し、餌に最適な原生動物(ゾウリムシ・クロロゴニウムなど)の選定も行っている。Kt株は、塩基配列情報が均一で信頼性が高いため、条虫類の分子系統樹を作製する場合の基準となり得る。そのため、他機関から材料提供の申し出があり、現在、共同研究を計画している。29基-23: 分子シャペロンネットワーク制御による新規ウイルス増殖抑制法の開発研究代表者:齊藤 峰輝(微生物学) 近年、細胞保護作用を持つ分子シャペロン蛋白質(熱ショック蛋白質群:HSPs)の阻害剤がHTLV-1の複製と成人T細胞白血病(ATL)細胞の増殖を抑制することが報告され、新規治療標的候補として注目されている。本研究では、HSPsのマスターレギュレーターである転写因子Heat shock factor 1(HSF1)に着目し、その活性を膜透過性リガンドShield-1およびFKBP12蛋白質変異体を用いた「プロテオチューナー法」により生理的条件下で人為的に制御することで、ATL発症におけるHSPsの病因的意義解明と新規治療法開発につながるシーズの発見を目指す。 ヒトHSF1のドミナントアクティブ体、ドミナントネガティブ体をFKBP12mutに融合したプラスミドを構築した。培養細胞に遺伝子導入してインフルエンザウイルスを感染させたところ、HSF1活性の促進によりウイルス粒子の産生が減少したことから、HSF-1が感染細胞に抗ウイルス活性を付与する可能性が示された。一方、ヒトT細胞白血病株(Jurkat)に一過性に遺伝子導入する系において、Shield-1によるFKBPmut-HSF1融合蛋白質の発現誘導を確認し、ヒトT細胞系でHSF1プロテオチューナーシステムが機能することを証明した。現在、HSF1発現誘導に伴うT細胞動態(増殖・細胞死・細胞間接着・遺伝子発現変動等)を継時的に解析中である。S57

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