医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-5:スフィンゴ脂質の代謝に重要な役割を果たす小分子の細胞内動態の解明研究代表者:大友 孝信(病態代謝学) 我々はマウスモデルで小分子サポシン(以後Sap)の研究を行ってきた。Sapはリソソーム内のスフィンゴ脂質分解酵素の働きを助けることが分かっているが、Sapの細胞内輸送やSap自体の切断に関しては未知の部分が多い。今回我々はSapの細胞内動態をヒト細胞で明らかにすることを目的として研究を行った。 Sapを検出するため、既報や市販の抗ヒトSap抗体を複数入手した。またヒトSapのアミノ酸配列を抗原としてポリクローナル抗体を新たに作製した。ヒト由来の細胞には主にHeLa細胞を用い、Western BlotでSapタンパク質の検出を試みた。Sapは小胞体やゴルジ体を通過する際に糖鎖修飾を受けるので、糖鎖切断処理前後のSapのサイズを比較した。またSap自体の切断を観察するためにリソソーム阻害剤を投与しSapのサイズを比較した。 今回1種類の抗体のみが内因性Sapを検出できた。既報どおりSapの一部は細胞外に分泌されていたが、細胞内のSapの多くは高マンノース型の糖鎖修飾を受けていることが新たに分かり、小胞体に局在していることが示唆された。またSapはリソソームのカテプシンDの働きで切断されるとの報告があるが、リソソーム阻害剤を投与して観察したところ、アスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシンDを含む)で一部が切断されたのちシステインプロテアーゼで引き続き消化されることが示唆された。今後Sapの輸送に関わるとされている分子やプロテアーゼの欠損細胞を作製し、Sapの特異的な細胞内動態を明らかにする。29若-2:O-GlcNAc化修飾を介したスフィンゴ糖脂質発現制御機構の解明研究代表者:郷 慎司(病態代謝学) スフィンゴ糖脂質は“糖”と“セラミド”からなる両親媒性の生体分子である。スフィンゴ糖脂質は糖鎖部分の構造の違いによって百種を超える多様な構造体が自然界に存在する。各スフィンゴ糖脂質はそれぞれ、多様な生体機能を調節する重要な細胞膜構成脂質である。その発現異常は糖尿病やがん、ライソゾーム病など様々な病態と密接な関係があることが報告されている。したがって生体内には精密な各スフィンゴ糖脂質の代謝-発現制御機構が存在すると考えられている。しかしながら、その代謝-発現制御機構の詳細に関してはまだまだ不明な点が多い。 スフィンゴ糖脂質の発現制御機構の解明を目指し、本研究では「糖ヌクレオチド代謝」、特にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)代謝の観点から解析した。ヒト由来培養細胞株に対してGlcNAc添加培養、ヘキソサミン経路の阻害などの細胞内GlcNAc量の改変を行うと、グロボ系スフィンゴ糖脂質Gb3の発現量が大きく変化することを見出した。加えて、O-GlcNAc転移酵素(OGT)の発現抑制を行うことで、Gb3の発現が変動したことから、細胞は「O-GlcNAc修飾」を介してグロボ系スフィンゴ糖脂質の発現量を制御していることが示唆された。この細胞内のタンパク質のO-GlcNAc化を介したグロボ系スフィンゴ糖脂質の発現制御には、糖脂質輸送タンパク質の発現変化が関与している可能性を見出した。S42川 崎 医 学 会 誌

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