医学会誌44-補遺号[S30]
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29基-2:脳梗塞後リハビリテーションによる神経回路再構成機序の解明:リハビリテーション法の違いによる神経ネットワーク再構成への影響研究代表者:岡部 直彦(生理学2) 脳梗塞後の機能回復には脊髄への下降性投射経路が重要な役割を果たしていると考えられているが、リハビリテーションがこれらの経路にどのような影響を及ぼすのかはわかっていない。そこで、本研究では複数のリハビリテーション法[拘束誘導運動療法(CIMT)、巧緻作業療法(Skilled forelimb training)、バランス運動(Rotarod)、有酸素運動(Treadmil)]を用いて下降性脊髄路の変化を調べた。 本研究では脳梗塞により大脳皮質運動野の皮質脊髄ニューロンの97%が破壊された。皮質脊髄路以外の下降性脊髄路は温存されていたが、すべてのラットで重度の運動障害が生じ、梗塞4週間後まで機能障害が残存した。4種類のリハビリテーションのうちCIMT治療群でのみ巧緻作業運動における部分的な回復がみられ、CIMTで治療されたラットでは梗塞周囲に残存する皮質脊髄路ニューロンの増加が見られた。しかしながら、皮質脊髄路以外の下降性脊髄路ではいかなるリハビリテーション治療群においても有意な変化は見られなかった。これらの結果は、脳梗塞後の機能回復においては皮質脊髄路の存在が必要不可欠であり、他の下降性脊髄路は皮質脊髄路の機能を代替することができないことを示しており、重度の脳梗塞患者においては皮質脊髄路の保護、再構成および再生を促進することが機能回復を改善するために重要であることを示唆している。29基-17:骨髄異形成症候群から急性白血病へ移行する分子機構の探索:患者骨髄細胞から段階的に悪性化した細胞株相互のゲノム比較による検討研究代表者:通山 薫(検査診断学(病態解析)) 骨髄異形成症候群(MDS)は急性骨髄性白血病に移行しやすい造血障害であるが、発症と病型移行の分子機構には未解明の点が多い。本研究の契機となったMDS患者由来細胞株MDS92を継代中に、あらたな8つの亜株を樹立することができた。MDS92とその亜株は、MDSから急性白血病への流れをインビトロで再現した培養細胞モデルのラインアップである。これらの細胞株と、発端となったMDS患者骨髄細胞を用いた全エクソームの比較解析によって、病型進展に関わる遺伝子変異を探索し、MDSの病型移行・病態悪化の分子機構の一端を解明し、それを防止する新しい治療戦略への道を開くことが本研究の目的であり、継続的に取り組んできた。 これまでの解析の結果、元のMDS患者骨髄細胞にはTP53変異に加えて約9%の分画にCEBPA変異が検出された。その培養中にN-RAS変異が付加され、細胞株樹立へとつながったと推定された。またMDS92からMDS-Lへ移行する段階でドライバー変異と思われるHistone1H3C 変異(K27M)が見出されたが、Histone1H3C変異(K27M)クローンの拡大はIL-3依存性で、逆にIL-3非存在下では同変異のないクローンが存続することが確認された。この結果から、ドライバー変異を獲得した異常クローンの拡大には造血因子のような骨髄環境要因が影響することが示唆された。S18川 崎 医 学 会 誌

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