医学会誌43-補遺号
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28大-1: 赤芽球の増加をともなう造血器疾患におけるsphingosine kinase/sphingosine-1-phosphateシグナルの役割研究代表者:定平 吉都、藤原 英世(形態系分野分子細胞病理学) 赤芽球増加を示す骨髄異形成症候群や急性赤芽球系白血病、真性赤血球増加症などの赤芽球系造血細胞の増殖が目立つ造血器腫瘍における、sphingosine kinase(SPHK)の過剰発現・活性化と、腫瘍の増殖や予後との関連についての研究を行っていたが、抗SPHK1抗体を用いた免疫染色が特異的であるという確証が得られなかった。そこで、マウスおよびヒトの造血器疾患におけるvascular adhesion molecule-1(VCAM-1)陽性マクロファージの増減を検討した。我々はCl2MDP-リポソーム投与によってマクロファージを枯渇させた脱血マウスの脾臓を用いて、VCAM-1の局在と赤芽球造血との関連を調べた。また、ヒト骨髄検体(正常骨髄、反応性・腫瘍性赤芽球系過形成)を、VCAM-1、CD163、CD169等を用いて免疫組織化学的に検討した。Cl2MDP-リポソーム投与マウスの赤脾髄では、VCAM-1陽性マクロファージのみならず赤芽球も消失しており、マクロファージの回復に並行して赤芽球造血も回復した。VCAM-1は、ヒト正常骨髄、巨赤芽球性貧血および真性赤血球増加症では、マクロファージ(CD169・CD163陽性)に陽性であったが、急性赤白血病では赤芽球間での染色性が不明瞭であった。一方、慢性骨髄性白血病では赤芽球に陽性像を認めた。 以上の結果を考慮すると、マウスのみならずヒトにおいてもCD169陽性・VCAM-1陽性マクロファージが、反応性あるいは腫瘍性赤芽球造血のニッチである可能性が推測された。28大-3: WithaferinAの白血病細胞株に対する効果の検討研究代表者:通山 薫、岡本 秀一郎(生化学系分野病態検査学) 急性骨髄性白血病に対して化学療法や造血幹細胞移植など様々な治療が試みられているが、生存率は約4割程度であり、満足できる成績ではない。そのため、新たな治療法の確立が望まれてい る。 我々はwithaferin A(WA)という植物の成分に着目し、白血病細胞株に対する増殖抑制効果を評価した。その結果、WAはG2/M arrestを誘導することを確認し、またアポトーシス誘導能についても検討を行った結果、部分的ではあるがWAにはアポトーシス誘導能があることを確認した。更に、WAの作用機序解明のためマイクロアレイ解析およびGSEA解析を行った結果、HMOX1 の発現が亢進していることを確認し、実際に蛋白レベルでもHMOX1の増加を確認した。近年、HMOX1は抗腫瘍薬投与時にオートファジーを誘導し、抗腫瘍薬耐性に関与していると報告されている。そこで、WAとオートファジー阻害作用のあるクロロキンを併用することで、WAの効果が増強するか検討を行った。その結果、オートファジーを阻害することでWAの増殖抑制効果とアポトーシス誘導能が増強することを確認した。 最後に、WAの正常造血細胞への影響を、健常ヒト骨髄CD34陽性細胞を用いて検討した結果、WAは、ヒト骨髄CD34陽性細胞に対しては明らかな増殖抑制効果や細胞周期への影響を示さなかった。 今回の研究では、白血病細胞株に対してWAの特異な増殖抑制効果が確認でき、新たな治療薬としての可能性があると考えられたため、文献的考察を加えて報告する。― 大学院 ―S81

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