医学会誌43-補遺号
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28基-47:ミトコンドリア機能を反映する新規バイオマーカーの開発 研究代表者:西松 伸一郎 (自然科学) ミトコンドリアは、生体エネルギーのATPを産生する細胞内小器官である。生体組織の恒常性維持において中心的な役割を担っており、その機能の障害もしくは低下はミトコンドリア病や糖尿病などの疾患を惹起する原因となる。組織や細胞のミトコンドリア機能の状態を簡便に測定することができれば、生活習慣病などの診断や治療ばかりでなく予防においても画期的な進歩をもたらすと考えられるが、今のところ実用化されているバイオマーカーはない。 われわれは、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)の脳卒中様発作に対するタウリン療法の医師主導治験を実施している過程で、ミトコンドリア機能を反映する新規バイオマーカーを発見した(特許出願済:特願2016-62910)。本研究では、マウスにおいてもヒトと同様にミトコンドリア機能を反映するバイオマーカーとなるか評価を行うことを計画した。若齢ならびに高齢マウスより、骨格筋などの生体組織を採取し、バイオマーカーの変動を解析しているところである。28基-53: ヒトiPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた組織プラスミノーゲン活性化因子の有効性と安全性の検討研究代表者:鎌尾 浩行(眼科学1)【目的】重篤な視力障害を引き起こす網膜下血腫に対しtPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)を用いた手術が行われている。一方で、臨床においてtPAの薬剤毒性と思われる網膜色素上皮細胞(RPE)障害の報告があるが、これまでにin vitroにおけるtPAのRPEへの安全性評価の検討はな い。そこでRPEに対するtPAの安全性を、ヒトiPS細胞から作製したRPE(iPS-RPE)と、RPEの株化細胞(ARPE19)、ヒト胎児RPEを用いて評価した。【方法】各RPEを様々なtPA濃度(0、10、20、100、200、1000、2000、4000μg/ml)の培地で1時間と24時間の培養後、経時的(1、7、28日後)に形態評価を行った。また、細胞毒性評価としてLDH活性、細胞機能評価として色素上皮由来因子(PEDF)と血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌量を測定した。【結果】1時間添加では、iPS-RPEと胎児RPEは2000μg/ml以上で明らかな形態異常を認め、200μg/ml以下では細胞障害を認めなかったが、ARPE19は全ての濃度において細胞障害を認めた。24時間添加では、全ての濃度でiPS-RPEと胎児RPEに細胞障害を認め、また添加7日後でも細胞障害を認めた。一方、PEDF、VEGFの分泌能はいずれの濃度においても有意な差は認めなかった。【結論】24時間添加により、臨床で用いられている濃度においても遷延する細胞障害を認めたた め、tPAが長時間残存する方法は避けるべきである。またiPS-RPEは胎児RPEと同様の薬剤抵抗性を示したため、創薬研究の有用なツールの可能性がある。S76川 崎 医 学 会 誌

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