医学会誌43-補遺号
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28基-20: バイオフィルム超微構造から見たブロー液の効果研究代表者:兵 行義(耳鼻咽喉科学)【はじめに】ブロー液は外耳炎、慢性中耳炎などの難治性耳感染症に臨床的に有効であり、あらゆる菌種に有効であると報告されている。近年、耳感染症の難治性の要因としてバイオフィルムが原因であることも指摘されている。我々は耳感染症の原因細菌に対してブロー液の作用メカニズムについて細菌学的検討を行っている。今回は難治性要因の一つである、ブドウ球菌によるバイオフィルム形成に及ぼすブロー液の影響を検討する。【対象・方法】バイオフィルム形成に及ぼす影響をS. epidermidis ATCC35984を用いてmicrotiter plate assayにて検討を行った。前培養した菌液を対象に、定法に従って48時間培養して形成したバイオフィルムに対するブロー液の影響について継時的に検討した。また、ブロー液で5分間菌液を前処理をした後48時間培養し、生じたバイオフィルムについて未処理菌と比較検討を行った。【結果・考察】48時間培養し生じたバイオフィルムに対してブロー液で5分~30分処理をしても効果は認められなかった。しかし、ブロー液で5分処理をした菌では発育には処理前と処理後で差は認めなかったが、バイオフィルム形成は有意に低下することが明らかになった。そのためブロー液は形成したバイオフィルムに対しては有効性を望めないが、あらかじめ菌体をブロー液で処理をすることによりバイオフィルム形成を抑制する効果があることが期待できた。   この結果を日常臨床に置き換えると頻回にブロー液に処置をすることにより、ブドウ球菌によるバイオフィルムによる難治性感染症を予防できることが示唆された。28基-49:細胞膜タンパク質gp91phox結合抗体の解析とScFvの作成研究代表者:栗林 太(生化学) 大腸菌にてモノクローナル抗体を作成すること、即ちScFv(single chain fragment of variable region)は抗原抗体反応の親和性の亢進、タグの挿入など利点がある。私どもは今回食細胞NADPHオキシダーゼと結合する抗体(7D5)のScFvの作成を試みた。好中球は病原微生物等を貪食すると、細胞休止期には細胞内に存在する蛋白質が、細胞膜に移行して膜蛋白質であるシトク ロームb558(p22phoxとgp91phoxのヘテロダイマー)と結合し、食細胞NADPHオキシダーゼは活性化される。この活性化型NADPHオキシダーゼは活性酸素の1種であるスーパーオキシド(O2-)を生成する。これらオキシダーゼ複合体を構成する蛋白質の1つでも遺伝的に障害されると、慢性肉芽腫症(CGD)になり重篤な感染症を繰り返す。これまで、CGDの診断は申請者等が作成したモノクローナル抗体(7D5)により行ってきた。この抗体は、gp91phoxを細胞胞外から認識する抗体であるが、エピトープ(gp91phox上の抗原)は不明のままであった。本研究の最終的な目的は、この7D5の抗原を決定することにある。そのために、7D5由来のScFv(7D5-derived single chain fragment of variable region)の作成に挑戦した。まず、マウス7D5産生B細胞からcDNAを調整し、VHとVLの配列を決定した。variable regionの存在によりcDNA作成に時間を費やしたが、クローニングに成功した。このcDNA配列をアミノ酸分析からも確認した。その後、VHとVLをリンカーにて結合し、大腸菌に発現させ、gp91phoxへの結合実験を行う準備を進めている。S68川 崎 医 学 会 誌

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