医学会誌43-補遺号
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28基-87:ROR1阻害による抗腫瘍効果とシグナル変化研究代表者:瀧川 奈義夫(総合内科学4)【目的】ROR1は肺癌などで発現亢進が認められているが、悪性中皮腫におけるその意義を検討する。【方法】4種類の悪性中皮腫細胞株(上皮型3株、肉腫型1株)にsiROR1を導入後、セルカウントおよびコロニーアッセイを行った。アポトーシスはフローサイトメトリー、蛋白発現はウエスタンブロット、mRNA発現はマイクロアレイとRT-PCR法により解析した。それらの結果から関連性が示唆されたmRNA発現のクラスター解析を、非腫瘍性中皮細胞株1株、悪性中皮腫細胞株4株、正常胸膜5検体、正常肺4検体、悪性中皮腫40検体のGEO database(GDS1220)を用いて行った。【結果】上皮型の細胞株においては、ROR1阻害による増殖抑制効果およびアポトーシスの増強が認められ、下流のAKTとSTAT3の活性が抑制されていた。マイクロアレイでは、siROR1で50%以上抑制されたmRNAは54種類存在した。そのうち19種類をRT-PCRで定量したところ、肉腫型のみで抑制されていたmRNAはWNT5A、EGR1、Sp1、SREBF1、およびARLであった。mRNAのクラスター解析では、悪性中皮腫検体は比較的均一な集団が同定されたが、悪性中皮腫細胞株とは異なる集団と位置づけられた。【結論】ROR1阻害による中皮腫治療の有効性が示唆されたが、肉腫型では上皮型と異なるROR1シグナル伝達の可能性が考えられた。28基-42: がん性悪液質状態における炎症性サイトカインとヘプシジン25の意義 -EGFR遺伝子改変マウスを用いて-研究代表者:山根 弘路(総合内科学4)【背景】がん終末期の悪液質は腫瘍進行に伴い増悪する慢性炎症により「患者の衰弱・消耗」と 「腫瘍の増大・転移」をきたすがんの本質的病態とされている。また、慢性炎症に伴う鉄代謝阻害のメカニズムも明らかにされ、その中核を成すヘプシジンが各種疾病における患者予後と相関することが報告された。我々は、がん性悪液質でも同様な系が存在する可能性を考え、EGFR遺伝子改変マウスと終末期がん患者の各種血清サイトカインおよびヘプシジン25濃度の推移を解析し、がん性悪液質の新たなメカニズムを見出すことを目的として今回の研究を発案した。【結果】H28年度は進行がん患者の炎症性指標の推移と予後について解析した。対象は川崎医科大学総合医療センター緩和ケア病棟に入棟したがん患者38名である。そのうち、本研究の適格症例23名における赤血球沈降速度(ESR)、血清CRP値、および血清フェリチン値の推移と生存期間との関連を後方視的に解析した。ESRおよびCRPについては相関が認められなかったが、血清フェリチン値の推移と予後とは相関していた。すなわち、生存期間8~20日の患者と51日以上の患者、および生存期間8~50日の患者と51日以上の患者間でそれぞれ相関が認められた。【考察】今回の検討の結果、がん性悪液質における慢性炎症にヘプシジンの関与が示唆された。本年度は動物実験も追加して検討する。S48川 崎 医 学 会 誌

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