医学会誌42-補遺号
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27 大-4:嗅覚神経回路におけるアセチルコリンニューロンの解析研究代表者:樋田 一徳、濵本 真一(形態系分野 統合形態学・神経科学) 嗅神経から入力された匂い情報は、嗅覚一次中枢の嗅球において、介在ニューロンのみならず、高次脳中枢からの遠心性入力によっても調節を受けている。その遠心性入力の一つに、対角帯水平部を起始核とするアセチルコリン(ACh)ニューロンがあるが、嗅覚調節に関わる局所神経回路は不明な点が多い。本研究の目的は、嗅球へ投射するAChニューロンの投射経路やシナプスを中心とした形態解析を行い、嗅覚機能にどのように関わるのかを解明することである。 嗅球に逆行性トレーサーを注入し起始核を標識し、各種ニューロンマーカーによる免疫染色で起始核領域の細胞分布を解析した。嗅球介在ニューロンとの近接・接触をレーザー顕微鏡で、シナプス結合の有無は電子顕微鏡トモグラフィー法で解析を行った。 起始核において、嗅球へ投射するニューロンのうち約15%がAChニューロンであり、他のニューロンとの分布に相違を認めた。AChニューロンの軸索は嗅球糸球体層に密に分布し、蛍光染色の結果、介在ニューロンと近接・接触を認めシナプス形成が予測された。電子顕微鏡による観察では、糸球体層で多様なシナプス後膜肥厚をもつ非対称性シナプスの形成を認めた。 本研究により、AChニューロンは種々の介在ニューロンとシナプスを形成することにより、嗅覚機能調整への関与が示唆された。また、シナプス形態の多様性により、伝達方式や伝達物質の多様性の存在が考えられる。27大-5:血管肉腫細胞の走化性におけるスフィンゴシン-1-リン酸受容体の役割研究代表者:定平 吉都、岡 大五(形態系分野 分子細胞病理学) 血管肉腫 (Angiosarcoma; AS)は内皮細胞に由来する悪性腫瘍で高率に転移を示し効果的な治療法は存在しない。スフィンゴシン-1-リン酸 (Sphingosine-1-phosphate; S1P) はASに高発現しているがその病理学的な意義は不明である。我々はヒト血管肉腫細胞 (MO-LAS)におけるスフィンゴシン-1-リン酸受容体1 (Sphingosine-1-phosphate receptor1; S1PR1) の発現と細胞遊走、細胞走化性との関連を検討しS1PR1がASの転移における治療標的となる可能性について検証した。ヒト血管肉腫細胞 (MO-LAS) におけるS1PR1の発現は免疫組織化学、Western blot法で確認した。S1PR1特異的si-RNAとFTY720-P (S1PR1機能的アンタゴニスト) の細胞遊走、細胞走化性への影響はwound healing assay、Transwell assayで評価した。MO-LASは免疫組織化学でS1PR1を高発現しておりS1Pは細胞遊走、細胞走化性を亢進させた。si-RNAによるS1PR1発現の抑制は細胞走化性を抑制した。FTY720-PはS1PR1の内在化、分解を促進し同時に細胞遊走、細胞走化性を抑制した。S1P/S1PR1 axisは細胞遊走、細胞走化性を制御することで血管肉腫の転移における治療標的となる可能性がある。S86川 崎 医 学 会 誌

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