医学会誌42-補遺号
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27基-23: インフルエンザウイルス感染の交差防御を担う宿主細胞の特定と機能解析研究代表者:後川 潤(微生物学)【背景・目的】インフルエンザ予防対策の中心はワクチン接種であるが、国内で使用されている不活化ワクチンでは細胞性免疫がほとんど誘導されず、またワクチン株と流行株の抗原性が異なると効果的な感染防御は期待できない。近年、細胞傷害性T細胞(CTL)が抗原性の異なるウイルスに対する交叉防御能を宿主に附与する責任細胞であることが報告された。本研究では、インフルエンザ感染により誘導されるCD8+T細胞の機能を解析し、その意義を明らかにする。【方法】マウスを用いた感染実験後に細胞を回収してFACS・ELISPOT等の免疫学的解析を行った。【結果】インフルエンザ発症後に回復したマウスの脾臓に存在するCD8+T細胞が、宿主に交叉防御能を附与する責任細胞である可能性が示唆された。一方、リンパ節に存在するCD8陽性T細胞には交叉防御活性が認められず、むしろ発症を促進しており、一部のマウスではCD4+CD8+T細胞が高頻度に認められた。【考察】リンパ節と脾臓に存在するCD8+T細胞では、免疫学的機能が異なることを明らかにした。今後はまず、各々のCD8+T細胞に発現する遺伝子を網羅的に比較解析することで、交叉防御能または発症を促進するCD8+T細胞の特徴とインフルエンザ発症における病因的意義を明らかにしたい。27ス-1:インフルエンザワクチン効力に「はずれ」が生じない新規ワクチン製造株の開発 研究代表者:内藤 忠相(微生物学) 最も理想的なインフルエンザ感染症対策は、ウイルス感染および重症化を未然に予防するワクチン接種であるが、現行のHAワクチンは万能ではない。その理由の一つとして、ワクチン製造時における抗原性変異の影響が挙げられる。HAワクチンは極めて特異性の高いIgG中和抗体のみを誘導し、抗原変異に対応できないことから、流行するウイルス亜型と抗原性が一致したワクチンを用いないとその効果が見込めない。 以上の問題点を解決するため、「遺伝的安定性に優れた新規ワクチン製造株の開発」を試みた。変異の入りにくいワクチン製造株が開発できれば、ウイルス増幅時における抗原性変異を考慮せずに済み、最大限の効果が期待できるワクチン株を効率よく選択できる。具体的には、「忠実性が向上した改良型ポリメラーゼ」を単離して、変異導入効率を低下させたワクチン製造株の開発を行った。近年に報告されたインフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの結晶構造解析等を基盤情報とし、ポリメラーゼサブユニットの一つであるPB1タンパク質の43番目のアミノ酸部位をValからIleに置換したウイルスを作製した結果、ウイルス増幅時における変異導入率を半分に低下させることに成功し、さらに、鶏卵を用いてウイルス継代を繰り返してもHAタンパク質に変異が入りにくいワクチン株を作製することができた。今後は、この高忠実性製造株をパンデミックワクチン開発に応用する予定である。S67

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